角館~鷹巣を結ぶ秋田内陸縦貫鉄道(秋田内陸線)。秋田の内陸の小さな町を1両の気動車がコトコト走るのんびりしたローカル線です。雪景色と温泉を求めて、初冬の秋田内陸線を旅してみました。
秋田内陸縦貫鉄道 秋田内陸線とは?
秋田内陸縦貫鉄道は、秋田内陸線(角館~鷹巣)を運行する第三セクターの鉄道会社です。
もともと国鉄の路線として開業した角館線(角館~松葉)と阿仁合線(鷹巣~比立内)、両線を結ぶ鷹角線を引き継いで開業した第三セクター鉄道です。秋田県、北秋田市、仙北市などが出資しています。
秋田内陸線は、観光地で秋田新幹線の接続駅でもある角館駅と、奥羽本線の鷹巣駅(JRの駅名は「鷹ノ巣」)を結ぶ、全長94.2km、駅数29の全線非電化のローカル線です。
前述のとおり、国鉄の路線として角館側と鷹巣側から徐々に開業しましたが、両側の路線がつながる前に、「特定地方交通線」に指定されてしまい、工事が凍結。第三セクター化されたときには、
- 秋田内陸北線(旧 阿仁合線 鷹巣~比立内 46.1km)
- 秋田内陸南線(旧 角館線 角館~松葉 19.2km)
の二つの路線として、1986年に開業しました。その後、両線を結ぶ比立内~松葉間(29.0km)が1989年に開業、「秋田内陸線」として全通したという歴史があります。
1両の気動車がコトコトと走るのんびりとした鉄道で、角館や鷹巣周辺の盆地に広がる田園風景、桧内川や阿仁川の川の風景、そして、山間部に広がる素朴な里山の風景を楽しむことができます。
秋田内陸線の旅に最適なフリーきっぷ「ウィークデーフリーきっぷ」「ホリデーフリーきっぷ」
秋田内陸線を旅するのであれば、フリーきっぷを購入するとお得になります。
きっぷ | フリー区間 | 利用可能日 | 料金 | 急行列車 |
---|---|---|---|---|
ウィークデー フリーきっぷ | 全線 | 平日 | 2,500円 | 乗車可 |
ホリデーフリー きっぷ全線タイプ | 全線 | 土休日 | 2,000円 | 乗車可 |
ホリデーフリー きっぷ Aタイプ | 土休日 | 鷹巣~ 松葉 | 1,000円 | 別途料金 必要 |
ホリデーフリー きっぷ Bタイプ | 土休日 | 角館~ 阿仁合 | 1,000円 | 別途料金 必要 |
片道寄り道きっぷ | 全線 片道のみ | 全日 | 1,800円 | 別途料金 必要 |
乗り降り自由なフリーきっぷは、平日の場合は「ウィークデーフリーきっぷ」一択です。2,500円と安くはないですが、角館~阿仁合(片道1,300円)を往復するだけで元が取れます。
一方、土休日には、「ホリデーフリーきっぷ」として、全線に乗り降り自由なタイプのほかに、区間を限定したタイプも発売されています。用途に応じて購入するとよいでしょう。
また、「片道寄り道きっぷ」は、1回に限り途中下車ができるきっぷです。角館~鷹巣の通しでの運賃は1,700円ですので、途中下車をしないのであれば、普通にきっぷを買ったほうが安いですが、どこかで途中下車するのであれば、「片道寄り道きっぷ」がお得になります。
【乗車記】秋田内陸縦貫鉄道 秋田内陸線(角館→阿仁前田)
2019年12月下旬、年末年始の帰省ラッシュにはまだ少し早い時期に、秋田内陸線を訪ねました。目的は雪見&日帰り温泉旅。
秋田内陸線には、以前、乗車したことがあるのですが、阿仁合で途中下車しただけでしたので、今回は他の駅でも途中下車して、丸一日、楽しんでみようと思ったのでした。
秋田内陸線「ウィークデーフリーきっぷ」で途中下車の旅へ!
12月下旬の平日、秋田新幹線「こまち1号」に乗車して、9時35分に角館駅に到着しました。
まだ年末年始の帰省ラッシュには早いためか、秋田新幹線の車内はガラガラ。角館で下車したのは私を含めて数名でした。
JRの角館駅に隣接する秋田内陸線の角館駅へ行き、「ウィークデーフリーきっぷ」(2,500円)を購入。1つだけしかないホームには、すでに鷹巣行きの列車が入線していました。黄色の塗装の気動車です。
車内は暖かみのある色のボックスシートが並びます。車内には、秋田犬の写真がたくさん貼られていました。
ボックスシートの窓下には、大きめのテーブルが設置されているのはうれしいですね。秋田内陸線の路線図が描かれているのもGoodです。
秋田新幹線から乗り換えた観光客数名を乗せて、9時50分に角館駅を出発しました。
雪を求めて秋田内陸線を北上
東京から秋田新幹線で角館までやってきたわけですが、例年にない暖冬で雪が少ない!
角館を出てしばらくは、田園風景が広がる盆地を進みますが、ごらんのとおり、雪はほとんどありません。「雪見旅」を目的に来たのにこれでは…。
角館から三つ目の八津駅で急行列車と行き違い。このあたりまでくると、次第に車窓は山深くなってきます。
秋田内陸線の列車は、何度も川を渡りますが、これは桧木内川(ひのきないがわ)。角館方面へ流れ下り、最終的には雄物川に合流して日本海に注いでいます。角館の桜の名所の一つ「桧木内川堤」を流れる川ですね。
秋田内陸線で北上していくと、徐々に雪が増えてきました。これでも例年よりは全然少ないのだと思いますが、何とか「雪見旅」ができそうだと、ほっと一安心。
車内販売でおやつを買って雪見旅
秋田内陸線の一部の列車には、アテンダントさんが乗車しています。この列車にも乗車していて、各駅の周辺の観光案内や、車窓の案内をしてくれます。
そして、なんと車内販売まであります。実は、車内販売に回ってきてくれたときには、乗客は私を含めてたった3名。せっかくだから何か買おうとおすすめを聞くと、沿線のお菓子「チーズ饅頭 笑内(おかしない)」(100円)が人気だというので一つ購入。
チーズ入りのクリームが入ったおいしいお饅頭でした。ちなみに、「笑内(おかしない)」は、秋田の地名で、この秋田内陸線の駅名(笑内駅)にもなっています。
入口と出口が同時に見える秋田内陸線最長の「十二段トンネル」
松葉駅を過ぎて、秋田内陸線は、1989年に開業した最も新しい区間へと入ります。とはいえ、何か変わるわけでもなく、乗っている分にはよくわかりません(笑)。
北上するにつれて積雪の量は増えていき、雪深い風景になってきました。
先ほどのおやつに購入した「笑内駅」を出ると、秋田内陸線の見どころの一つ、「十二段トンネル」へ。
「十二段トンネル」は、全長5,697mもあり、秋田内陸線で最長のトンネルです。トンネルなので当然景色は見えないのですが、何が見どころかというと、このトンネル、きれいに一直線に作られているのです。勾配が多少ありますが、その勾配のピーク区間からは、10秒間程度、「入口と出口の両方が見える」のです。
アテンダントさんの解説によると、勾配のピークは、南側(笑内側)の入口から約1kmくらいのところだそうです。
乗客も少ないことですし、せっかくなのでその瞬間を見てみようと構えていると、確かに10秒程度の間、列車の前方と後方に、上の写真のようなトンネルの出口が見えました。(車内が盛大に映り込んでいるのは気にしないでください…)
5km以上もあるトンネルで、このような光景が見られるのは秋田内陸線ならではでしょう。直線であることに加えて、1両で運転されている列車であるからこそ、両側をいっぺんに眺められるのですから。
秋田内陸線の有名撮影スポット「大又川橋梁」、貸切列車で絶景を眺める!
十二段トンネルを抜けると、北秋田市の阿仁に入ります。マタギの里として有名なエリアですね。
11時ちょうどに比立内(ひたちない)駅に到着。ここで、若い男性2名の乗客が下車。鉄道ファンかなと思っていたら、どうやら撮り鉄さんだったようで、この雪の中、秋田内陸線の撮影に行くそうです。
ということで、めでたく?この列車は私ひとりの貸し切りとなりました(笑)
萱草(かやくさ)駅を出ると、列車は秋田内陸線の有名撮影スポット「大又川橋梁」へと差し掛かります。
阿仁川にかかる高さ28メートルの橋梁です。赤い鉄橋を渡る秋田内陸線の列車は、同線のポスターでもよく見かけます。
列車に乗っていると、当たり前ですが、赤い鉄橋そのものは見られません。とはいえ、車窓からの阿仁川の風景はなかなかのものです。
反対側には、二つの道路が通っているのが見えます。上に見える高いところを通っているのが国道105号線です。
大又川橋梁を過ぎ、秋田内陸線の中心駅、阿仁合駅に近づいていくと、ようやく乗客が増えました。とはいっても、私を含めて3名ではありますが…。
阿仁合駅では8分停車。ここで5~6名の乗車がありました。
阿仁川に沿って阿仁前田駅へ
阿仁合駅には後ほど寄ることにして、さらに先へと進みます。
阿仁合駅を出ると、車窓が開けてきます。阿仁川の流域に広がる盆地のような地形のところを北上していきます。
ちなみに、先ほどご紹介した「十二段トンネル」のところで水系が変わります。南側は雄物川系の桧木内川、そして、北側は、米代川系の阿仁川です。秋田内陸線の車窓から眺める限り、阿仁川のほうが川幅が広く、ゆったりしているようです。
11時44分、阿仁前田駅に到着。ここで下車します。
阿仁前田駅併設の温泉「クウィンス森吉」で日帰り温泉!
阿仁前田駅で下車したのは、この駅に併設されている温泉施設「クウィンス森吉」に立ち寄るためです。
阿仁前田駅の駅舎と一体化していますが、なかなか立派な施設ですね。この「クウィンス森吉」は、立ち寄り湯だけでなく、宿泊もできるようになっています。
駅の広い待合室の片隅に、「クウィンス森吉」の入口があります。
受付で入浴料(500円)を支払って入ります。ロビーには、地元の物産品が並べられていました。
室内の大浴場と、そこそこの大きさの露天風呂を備えています。この日は時間が早かったせいか、貸し切り状態でした。
泉質は、カルシウム・ナトリウム-塩化物泉。少し舐めてみるとしょっぱいです。暖冬とはいえ、東京に比べるとずっと寒い秋田の内陸地方ですので、やや熱めの温泉がありがたいです。源泉かけ流しで、500円で入れる温泉とは思えないほどよいお湯でした。
温泉から出たあとは、2階にある休憩スペースへ。食堂にもなっていて、おつまみや麺類なども注文できます。結構広いスペースで、地元の方々の交流の場になっているようでした。


缶ビールとポテトフライで乾杯! 次の列車まで、お風呂上がりのビールを楽しんだのでした。
【乗車記】秋田内陸縦貫鉄道 秋田内陸線(阿仁前田→阿仁合)
阿仁前田駅からは角館方面へと戻ります。鷹巣まで全線乗車してもよかったのですが、以前に一度乗ったことがありますし、今回は途中下車を楽しもうと思っていたので、ここで引き返すことにしたのでした。
2018年にリニューアルされた阿仁合駅へ
阿仁前田駅13時16分発の阿仁合行き乗車。先ほど、角館から乗ってきたのと同じ車両。鷹巣駅で折り返してきたようです。
阿仁合駅には15分ほどで到着しました。この列車は阿仁合駅止まりのため、多くの乗客は角館方面への列車に乗り継ぐようです。
私はといえば、阿仁合駅で途中下車して、駅周辺を散策しようという魂胆です。
阿仁合駅は2018年にリニューアルしたばかり。特徴的な三角屋根の駅舎は健在ですが、内部は大幅にリニューアルされていました。


駅の待合室には売店が併設されています。そして、以前は「食堂」という雰囲気だった「こぐま亭」は、小洒落たレストランに! 後ほど、ランチに立ち寄ってみます。
阿仁異人館・伝承館へ
阿仁合駅から徒歩で5分ほどのところにある「阿仁異人館・伝承館」を訪ねてみました。
2棟のレンガ造りの建物が並んでいますが、こちらの「阿仁伝承館」のほうに入口があります。入館料の400円を支払って中に入ります。
館内は撮影禁止ですので、館内の様子は「阿仁異人館・伝承館」のWebサイトをご覧ください。
「阿仁伝承館」のほうでは、鉱山によって発展してきた阿仁の歴史について、パネルや貴重な資料、映像などで展示されています。
阿仁鉱山の歴史は古く、1309年に金山として開かれ、その後、銀や銅を産出するようになりました。江戸時代には、阿仁鉱山が産銅量で日本一になったこともあるほど、その名前は知られていたようです。
その後、明治時代になり、それまで秋田藩が運営していた銅山が官営となりました。銅山の近代化を図るため、ドイツからアドルフ・メツゲルら、外国人技師を招きましたが、その住居となったのが、もう一つの建物「異人館」なのです。
「異人館」の建物自体もメツゲルの設計によるもので、外国人技師の官舎や事務所として使われていました。1990年には国の重要文化財の指定を受け、現在も大切に保存されているそうです。
内部は洋風で、レンガ造りの外観とともに、明治時代初期の秋田の内陸部では、さぞかし珍しい建物だったのでしょう。実際に、この地域のその後の文化にも影響を与えたそうです。
阿仁合駅「こぐま亭」で馬肉シチューを堪能
阿仁合駅に戻り、駅舎内にあるレストラン「こぐま亭」でランチにします。
前述のとおり、以前の「こぐま亭」は「食堂」と呼んだほうがよさそうなお店でしたが、阿仁合駅のリニューアルに伴って、小洒落たレストランに変身しました。
せっかくですので、看板メニューの「馬肉シチュー黄金ライス添え」(1,100円)を注文。しっかりとした味のシチューに、全く癖がなく柔らかく煮込まれた馬肉がマッチして、とてもおいしい一品でした。
馬肉の煮込みは、阿仁地方の郷土料理。その煮込みを洋風にアレンジしたのが「馬肉シチュー黄金ライス添え」なのだそうです。
【乗車記】秋田内陸縦貫鉄道 秋田内陸線(阿仁合→阿仁マタギ)
阿仁合駅からは、15時28分発の急行もりよし3号に乗車して、阿仁マタギ駅へ向かいました。
急行もりよし3号に乗車
急行列車に乗るためには急行料金(160円または320円、距離によって異なる)が必要ですが、前述の通り「ウィークデーフリーきっぷ」なら、急行列車にもそのまま乗車できます。
以前は、急行専用の車両があったのですが、現在は、普通列車の車両をそのまま利用しているようです。この赤い塗装の車両も、内装などは普通列車と変わりません。
午前中に角館から乗車してきた時に通った大又川橋梁を通過し、15時52分、阿仁マタギに到着。ここで下車しました。
「打当温泉 マタギの湯」で日帰り雪見露天風呂を満喫!
まだ16時前ですが、すでに夕暮れ。12月下旬のこの時期は、陽が短いですね。
阿仁マタギ駅で下車したのは、ここから車で5分ほどのところにある「打当温泉 マタギの湯」を訪れるためです。
阿仁合駅で列車に乗車する前に、打当温泉へ電話をし、駅までの送迎をお願いしておきました。駅に到着したら、すでにワゴン車が待ってくれていました。日帰り入浴だけでも、快く送迎をしてもらえて、とても助かりました。
「打当温泉 マタギの湯」は宿泊もできる温泉宿です。「うっとうおんせん」と読みます。
「マタギ」の文化が伝わる地の温泉宿ですので、宿泊すれば、里山の田舎料理や、熊鍋などをいただくこともできるそうです。残念ながら、今回は日帰り入浴のみですが……。
温泉「マタギの湯」は源泉かけ流しの良いお湯でした。ナトリウム・カルシウム塩化物泉ですので体も温まります。
そして、何といっても、露天風呂で雪景色を見ながらの入浴は、とてもよかったです。雪は少なめでしたが、冷たい冬の空気の中で入る露天風呂、とても贅沢ですね。
温泉を出たあとは、列車の時間まで、ロビーにおいてあるソファでくつろいでいました。
列車の時間に合わせて、阿仁マタギ駅まで送ってもらえるのも助かります。
【乗車記】秋田内陸縦貫鉄道 秋田内陸線(阿仁マタギ→角館)
18時04分の角館行きの列車を阿仁マタギ駅で待ちます。
まだ18時だというのに、あたりは真っ暗で、人影も見当たりません。ときおり、遠くの道路を車が通るくらいです。線路の向こう側に川が流れていて、その音だけが響きます。
時刻通りに列車がやってきました。暗くて寒い駅のホームで待っていたので、列車のライトがとてもありがたいものに感じます。
列車の先客は2名のみ。角館が近くなると数名乗車してきましたが、車内は空いたまま、19時ちょうどに、角館駅に到着しました。
角館駅前はパープルの灯りでライトアップされていました。
以上、「【秋田内陸縦貫鉄道 乗車記】 冬の秋田内陸線 途中下車の旅、雪見&日帰り温泉三昧!」でした。車窓はもとより、グルメや温泉も満喫しました。単に乗りとおすだけでなく、時間をとって途中下車の旅を楽しむのも良いものですね。
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