群馬県の渋川駅と大前駅を結ぶ「吾妻線」(あがつません)。吾妻川がつくる谷筋に沿って進む川の路線ですが、沿線には草津温泉、四万温泉などの有名温泉地があり、これらの温泉地へのアクセス路線でもあります。関東地方にありながら、終着駅の大前駅へ到達する列車は1日5本のみ! 関東最果ての駅でもあります。
吾妻線(あがつません)とは?
吾妻線は、群馬県の渋川駅と大前駅の間、群馬県北部を東西に結ぶJR東日本の路線です。全長は約55km、電化されていますが、全線が単線です。
吾妻線は、利根川の支流、吾妻川に沿って線路が敷かれています。吾妻線の南側には榛名山や浅間山、北側には草津白根山があり、その間の渓谷に沿って進んでいきます。
渋川駅は上越線との接続駅で、吾妻線のほとんどの普通列車は、上越線の高崎駅や新前橋駅から直通運転されています。また、沿線には、草津温泉をはじめ、四万温泉、沢渡温泉、川原湯温泉などの温泉地が点在しているため、温泉地へのアクセス路線としての側面も併せ持っています。上野からは、「特急草津」が運転されています。
吾妻線乗車記 関東最果ての駅、大前駅へ
2019年3月下旬、春の青春18きっぷを利用して、吾妻線の大前駅を訪問してきましたので、乗車記をお届けします。
新前橋から吾妻線の始発列車に乗車!
前日は新前橋駅近くのホテルに宿泊。早朝の新前橋駅へ。
新前橋駅から、吾妻線に直通する始発列車に乗車します。吾妻線の普通列車は高崎車両センターの211系電車が使われています。
車内はロングシートで、旅情はあまりありませんが、東京や埼玉方面からの接続がない始発列車なのでガラガラです。
新前橋駅には高崎車両センターがあり、多くの電車が留置されています。この特急のような列車は、485系「宴」ですね。車内がお座敷のようになっている、いわゆるお座敷列車です。
渋川駅から吾妻線へ
06時23分、車内は閑散としたまま、新前橋駅を発車しました。新前橋から渋川までは、上越線を北上します。
渋川を出ると、上越線と分かれて吾妻線に入ります。上の写真に見える線路は、上越線ですね。
このあたりまでは、関東平野の北端部を走ります。周囲には山々が近づいてきますが、平坦なところを進みます。
渋川の次の金島駅あたりまでは、車窓右側に赤城山が見えるはずなのですが、あいにくの曇り空で、すそ野の部分がぼんやりとわかる程度でした。
上越新幹線の高架が見えました。金島駅付近で交差していますが、上越新幹線は北へ、こちらの吾妻線は西へ向かいますので、どんどん離れていきます。
徐々に両側の山々が迫ってきて、谷筋のような地形へ分け入っていきます。
吾妻川と榛名山を眺めながら西へ
祖母島(うばしま)駅を出たあたりから、左側の車窓に吾妻川が見えてきました。
吾妻川は群馬・長野県境付近の鳥居峠に源を発する一級河川で、群馬県北部を東側へ流れ、渋川市で利根川に合流しています。
吾妻線は、終点の大前まで、この吾妻川を遡っていきます。
中之条駅あたりからは、車窓左側、吾妻川の向こうに榛名山を見ることができます。
吾妻線は、吾妻川のつくる谷筋を、時には高いところから吾妻川を見おろしてみたり、時には吾妻川に近い高さまで降りてきたりと、蛇行する吾妻川に寄り添って進んでいきます。
こんな地形なのに、トンネルが極めて少ないのは、開業が古い鉄道だからでしょう。トンネルを掘らなくてもよいルートを見つけて線路を敷いたのでしょうね。
新線区間を抜けて
途中、07時20分に岩島駅に到着。岩島駅を出ると、突然、立派な高架区間へ、直線的で長いトンネルも増えてきます。
実は、岩島~長野原草津口間は、沿線の八ッ場ダムの工事に伴って、2014年に新線への付け替えが実施されました。旧線区間はダムに沈んでしまうためです。
これまで走ってきた線路とは明らかに構造物のつくりが異なるので、車窓を見ていれば一目でわかります。
07時28分、川原湯温泉駅に到着。川原湯温泉の温泉街もダムに沈んでしまうため、温泉街や駅ごと引っ越したのでした。
車窓には、八ッ場ダムの工事があちこちで行われている様子を見ることができました。その工事現場の向こう、かすかに見える鉄橋は、吾妻線の旧線区間でしょうか。
長野原草津口駅に到着する少し前。このあたりは、渓谷が深くなり、吾妻川の流れも細くなっていました。
関東最果て終着駅、大前駅へ
07時33分、草津温泉への玄関口、草津原長野口駅に到着です。さすがにこの時間では、温泉客の乗降はありません。わずかに乗っていた地元客や学生さんも下車してしまい、車内はさらに閑散とした状態に。
07時48分、万座・鹿沢口駅に到着。駅名のとおり、万座温泉への玄関口です。ほとんど乗客はこの駅で下車してしまいました。
そして、07時52分、終点の大前駅に到着しました。下車したのは、私以外には一人だけ。その一人も、車掌に挨拶して、駅前に駐車していたJRの社名の入った軽自動車に乗っていってしまったので、おそらく関係者でしょう。
ということで、吾妻線を完乗です。すごい景色を眺められる路線というわけではないのですが、車窓に見える吾妻川と、その川沿いの集落は、のんびりとローカル線の旅を楽しむのに向いていると感じたのでした。
何もない吾妻線の終着駅、そして、関東最果ての駅、大前駅
さて、折り返しの電車まで30分ほど時間があるので、駅前を散策してみましょう。
大前駅の先、100メートルほどまでは線路が伸び、架線が張られています。大前駅のホームは、吾妻線の普通電車(4両)に合わせた長さしかありませんが、7両編成の特急草津も停車できるようにしてあるとのこと。以前は、大前駅の一駅手前、万座・鹿沢口駅まで特急草津が乗り入れていましたが、現在は、すべての特急草津が長野原草津口が終点。おそらく、今はこの設備は使われることはないのではないかと思います。
駅前にある踏切を渡ったところから撮影。駅前には数件の住宅や宿舎のような建物以外は何もありませんでした。
駅前には吾妻川が流れていますが、川の両岸では工事をしているようです。
大前駅から吾妻川を渡った向こう側、川岸の崖の上に集落があるようですが、そこまで往復する時間はありませんでした。
対岸の道路には、ときおり工事関係の車両が見られましたが、それ以外は人の動きは全くなし。
ちなみに、手すりが白くなっているのは、びっしりと霜が降りているためです。3月下旬、東京ではすでに桜が開花していましたが、大前駅は雪が降ってもおかしくない寒さ。それもそのはず、大前駅の標高は840メートルもあるのです。
関東地方では最西端の駅、群馬県の西の端に位置します。少し西へ行けば、すぐに長野県に入り、菅平高原に出ます。
駅のそばでは、お湯が流れ出ていました。近くで温泉でも湧いているのでしょうか。沿線には温泉が多い吾妻線ですから、温泉が湧いていても不思議はないのですが。
大前駅のホーム上には待合室があります。中に入ってみると、椅子には座布団が敷かれていて、きれいに整備されていました。利用客の少ない駅ですが、冬は寒さが厳しいため、待合室が必要なのでしょうね。
待合室の中に時刻表がありました。1日5本の普通列車のみが発着します。11時ちょうどの新前橋行きから、17時29分発の新前橋行きまで、日中時間帯は6時間半も電車がありません。朝晩の通勤・通学に特化したダイヤですね。
ここまで乗務してきた運転士と車掌は、特にやることがないのか、手持ち無沙汰で車両の中で休んでいます。
このあと、08時35分発の新前橋行きで戻りましたが、この列車に乗車していたのは私一人。次の万座・鹿沢口駅で下車しましたが、たった一駅ですが、4両編成の電車を独り占めできたのでした。
大前駅訪問に便利な西武観光バスで軽井沢へ
吾妻線自体が長い盲腸線なので、大前駅を訪問したら、来た道を戻るしかありません。
そんな時に便利なのが、大前駅の一駅手前、万座・鹿沢口駅を通る西武観光バスです。万座バスターミナル(一部は草津温泉)~軽井沢間を結ぶ路線バスで、1日数本運転されています。この路線バスをうまく活用すれば、吾妻線を戻らなくても、軽井沢へ抜けることができます。
以下の記事で詳しく紹介していますので、大前駅への訪問や乗りつぶしを考えていらっしゃる方は、ぜひご覧ください。
この西武観光バスの路線、浅間山の中腹を走る絶景路線でもあります。天気が良ければ景色も期待できます。
以上、『【吾妻線 乗車記】吾妻川の谷筋に沿って進む川と温泉の路線! 終着「大前駅」は関東最果ての駅!』をお届けしました。吾妻川とその沿線に点在する集落を眺めていると、何か癒される、そんなローカル線です。
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