日本は山が多い国ですので、山間部を走る鉄道路線はたくさんあります。今回は、その中から「高原」っぽい車窓が眺められる路線を4つ、独断と偏見で選んでご紹介します。いずれも車窓が素晴らしく、景色を眺めながらのんびりと旅をするのにピッタリの路線です。ぜひ、青春18きっぷの旅で乗りに行ってみてください。
小海線(小淵沢~小諸)
小海線は、山梨県の小淵沢と、長野県の小諸を結ぶ、全長78.9kmの非電化ローカル線です。「八ヶ岳高原線」 の愛称のとおり、八ヶ岳の東側の山麓を南北に走っています。標高の高いJR駅トップ10のうち、実に9駅が小海線の駅という、まさに日本を代表する高原路線です。
小海線ではどんな絶景が見られるの?
小海線の車窓は変化に富んでいます。
まず、小淵沢を出ると、いきなり急勾配を駆け上がっていきます。小淵沢駅の時点で、標高は881メートルもありますが、そこからさらに登っていくわけです。しばらく森の中を進むため、眺望はよくありません。ところどころ、木々の合間から八ヶ岳が見られる程度です。
清里を出てしばらくすると、これまで絶え間なくうなりを上げていたエンジン音がふと止んで、急に視界が開けてきます。このあたりがJR線の最高地点です。この車窓の劇的な変化が小海線のハイライトです。私はこの車窓の変化が大好きで、小海線には数えきれないほど乗車しています。
このJR最高地点から野辺山~信濃川上~佐久広瀬の3駅間くらいが、高原鉄道の名にふさわしい車窓が望めます。天気が良ければ、西側に八ヶ岳がはっきり眺められます。
小海線乗車のおすすめプランは?
ぜひ、小淵沢からの乗車をおすすめします。 八ヶ岳を眺めたいのであれば、進行方向左側(西側)に座りましょう。急勾配を登り切り、パッと視界が開けたときの美しさは忘れられません。
野辺山までの区間列車も設定されていますので、途中の清里や野辺山で途中下車して、散策や観光を楽しむのもおすすめです。特に、夏場であれば野辺山での観光がおすすめです。標高は1,300メートル以上あり、真夏でも気温は30℃に届かずさわやかな気候です。天気がよければ、駅前のレンタサイクルで自転車を借りて、小海線の線路沿いを走ってみることをおすすめします。JR線の最高地点には、最高地点の碑が建っています。野辺山駅から約2kmですので、自転車でしたらすぐです。
さらに、2017年から運転を開始した観光列車「HIGH RAIL 1375」への乗車もおすすめです。大きな窓にゆったりとした座席で小海線の車窓を楽しむことができます。さらに、オプションで、お弁当やブランチ、スイーツを車内でいただくこともできます。
詳しくは、以下の紹介記事をご覧ください。日中運転の「HIGH RAIL 1号」「HIGH RAIL 2号」と夜間運転の「HIGH RAIL 星空」の乗車レポートもあります。

小海線については、以下のページで関連記事をまとめていますので、ぜひご覧ください。小海線の車窓や沿線の観光スポット、「HIGH RAIL 1375」の乗り比べなど、盛りだくさんです。

中央本線(東京~塩尻)
前述の小海線にアクセスするために利用する中央本線(JR東日本の東京~塩尻間)も、高原路線といってもよい路線です。
東京を走る「中央線」(東京~高尾)にしか乗ったことがないと意外に思われるかもしれませんが、中央本線は立派な山岳路線。小海線との接続駅、小淵沢駅の標高は886メートルもあります。
中央本線ではどんな絶景が見られるの?
東京側から下り列車に乗ると、高尾までは関東平野の中を直線的に進んでいきますが、高尾を出ると一気に山の中へと入っていきます。徐々に標高を上げていきますが、大月駅の周辺以外は、あまり視界が開けていません。
見どころの一つが、東京・山梨の県境付近にある山間部を抜けて、甲府盆地へ入るところです。勝沼ぶどう郷駅の少し手前ぐらいから、一気に視界が開け、甲府盆地と、その向こうの南アルプスの山々が車窓を彩ります。
甲府を出ると、どんどんと標高を上げていきます。車窓を見ていると、かなりの登り坂になっているのがわかります。
そして、右手には八ヶ岳が見えてきます。小海線に乗ればもっと近くで眺めることもできますが、中央本線の小淵沢周辺からでも、八つの頂を持つといわれる八ヶ岳の山並みをしっかり見ることができます。
上の写真は小淵沢駅の展望台から撮影したものですが、車窓からも同様に見ることができます。
中央本線乗車のおすすめプランは?
旅程にもよりますが、東京側から甲府・松本方面への下り列車がおすすめです。どんどん標高を上げて行ったり、甲府盆地に入ると一気に視界が開けたりと、車窓の展開がドラマチックです。
青春18きっぷを利用する場合には、基本的に高尾で乗り換えが必要です。中央本線には、高尾~松本間を走破する長距離普通列車が1日に何本かあります。また、東京や新宿から乗り換えなしでアクセスできる大月からも、松本方面への列車が出ています。詳しくは、以下の記事をご覧ください。

長距離を走る普通列車が多い中央本線ですが、中でも、高尾~長野を5時間近くかけて走破する「441M」(列車番号)という列車があります。5時間と聞くと長いように感じるかもしれませんが、この「441M」は、途中での特急列車の通過待ちが少なく、かなり速い部類に入ります。チャンスがあれば利用してみてください。
高尾発長野行きの普通列車「441M」については、以下の記事で紹介しています。

花輪線(好摩~大館)
花輪線は、岩手県盛岡市の好摩から、秋田県大館市の大舘までを結ぶ、全長106.9kmの非電化ローカル線です。「十和田八幡平四季彩ライン」 という愛称のとおり、八幡平のすそ野をぐるりとまわるように走っています。
花輪線の列車は、基本的に盛岡~大館間を通しで運転されています。盛岡~好摩間は、東北新幹線の八戸延伸開業時に、第三セクターの「IGRいわて銀河鉄道」に転換された区間ですので、青春18きっぷでは乗車できません。別途、660円のきっぷを購入しましょう。
花輪線ではどんな絶景が見られるの?
盛岡から乗車すると、好摩までの区間は、車窓左側に岩手山が見られます。岩手山は東側から見ると、富士山のように、すそ野の広い独立峰に見えます。標高2000メートルを超える山ですので、その存在感は抜群です。
好摩を出ると、いわて銀河鉄道線(旧東北本線)から分かれて北西へ進路をとります。この辺りは、まだ内陸の田園風景といった感じですが、途中の松尾八幡平を出たあたりから急勾配を登り始めます。
昔は、この急勾配を超えるために、SLの三重連(SLの機関車を三つ連結した編成のこと)が見られたところで、それだけ勾配が急なところです。現在の気動車のパワーであれば全く問題はないですが、それでもエンジン全開で、スピードを落として登っていきます。田園風景から一気に急勾配を駆け上がるこのあたりが、ハイライトの一つでしょう。
登り切ったあたりが、安比高原駅です。安比高原から湯瀬温泉あたりまでは、比較的標高の高い盆地状のところを走行します。小海線ほど視界が開けているわけではないですが、高原列車といってもよい区間です。
花輪線乗車のおすすめプランは?
非電化路線の場合は、急勾配を登るほうが楽しいので、盛岡から大館方面行きに乗車するのがおすすめです。 岩手山や八幡平は車窓の左側に見えますので、進行方向左側の座席を確保しましょう。
花輪線には、キハ110系というJR東日本の非電化路線でよく見られる気動車が走っています。私が以前乗車したときには、キハ58系という古い気動車が走っていて、冷房が付いていませんでした。それでも、窓を全開にしているとさわやかな風が吹き込んできて、気持ちよかったものです。今の列車は窓が開かないのが残念ですね。
豊肥本線(大分~熊本)
豊肥本線は、大分と熊本を結ぶ148kmの路線です。九州のほぼ真ん中を東西に横切る路線です。熊本側の熊本~肥後大津間は電化されていて、熊本市中心部の近郊路線となっています。それ以外は非電化で、ローカル線の雰囲気が漂う路線です。
豊肥本線ではどんな絶景が見られるの?
豊肥本線のハイライトは、阿蘇の巨大カルデラの外輪山を抜ける険しい区間と、カルデラ内部を走る平坦な区間の変化 でしょう。
熊本から乗車すると、肥後大津までは都市部を走ります。都会の近郊路線といった雰囲気です。肥後大津から非電化区間に入ると、一気にローカル線の雰囲気が濃くなり、田園風景の中、次第に高度を上げていきます。
前半の最大の見どころは、立野駅のスイッチバック です。阿蘇の外輪山が途切れたあたりに位置していて、鉄道、道路、川までもが、立野あたりからカルデラの内外を結んでいます。険しい外輪山が唯一途切れたところを狙って、鉄道や道路を敷設したのでしょう。
立野でスイッチバックして、さらに標高を上げてカルデラの内部へと入っていきます。カルデラの内部は、まるで盆地のように平坦な地形になっていて、先ほどまでの外輪山の険しい地形が嘘のようです。周囲は、車窓左側に外輪山、右側には阿蘇山の本体である阿蘇五岳が望めます。どちらを見ても山で、ここが巨大なカルデラの中であることが実感できます。
阿蘇観光の拠点駅の阿蘇や宮地を過ぎると、再び外輪山を抜けるために高度を上げていきます。今度は、外輪山の低いところをめがけて蛇行し、長いトンネルを抜けて外輪山の外へと出ていきます。途中、阿蘇のカルデラ内を一望できるところもあり、世界的にもまれなカルデラ内の街並みを眺めることができます。
豊肥本線乗車のおすすめプランは?
熊本、大分のどちらから乗車してもよいと思いますが、阿蘇駅で途中下車して阿蘇山や草千里といった観光名所を巡るのがおすすめ です。阿蘇駅から路線バスが出ています。
(2021.02.16追記)
肥後大津~阿蘇間は、2020年8月8日に運転を再開しました。2021年11月現在、豊肥本線は全線で通常運行中です。詳しくは以下の記事もご覧ください。

【番外編】根室本線(落合~新得 代行バス)
最後に、番外編として、根室本線の落合~新得間をご紹介します。
この区間は、狩勝峠という峠越えの区間になっています。狩勝峠の車窓からは、十勝平野を一望することができ、その雄大な車窓から、「日本三大車窓」の一つになっていました。
現在は新線に付け替えられてしまったため、かつてほどの車窓ではなくなってしまいましたが、それでも、北海道のスケールを感じられます。
なぜ【番外編】にしたかというと、この区間、現在は列車が走っていないためです。
2016年の台風被害の影響で、2022年10月現在も、東鹿越~新得間が不通になったままです。被災してからすでに6年以上が経過していますが、復旧工事も始まっていません。この区間を含む富良野~新得間は、JR北海道が「単独で維持困難な線区」として廃止・バス転換を求め、沿線自治体もバス転換を許容したためです。
不通区間の東鹿越~新得間では代行バスが運転されています。実は、この代行バスが、かつての狩勝峠越えの旧線に近いルートを通ります。景色のよいところには展望台やレストハウスがあるのですが、残念ながら代行バスは通過してしまいます。ただ、代行バスの車窓からは、一瞬ですが、十勝平野の絶景を見ることができます。
現在の情勢では、この区間の鉄道が復旧して、運転再開される可能性は極めて低くなっています。正式に廃線となれば、代行バスも運転されなくなってしまいますので、訪問したい方はお早めに。
この区間を含む富良野~新得間の乗車記を以下のページに掲載していますでの、ぜひご覧ください。

以上、独断と偏見で高原路線(高原っぽい車窓が見られる路線)を4つ紹介してみました。単なる峠越えだけではなく、高原の雰囲気が味わえる路線を選んでみましたが、いかがでしたでしょうか? いずれも青春18きっぷで乗車できる路線ですので、汽車旅の参考にしてもらえればと思います。
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本記事で紹介している高原の路線だけでなく、海が見える絶景路線、川沿いの路線など、車窓から見える景色ごとに、おすすめの路線を紹介しています。青春18きっぷの旅で、車窓が素晴らしい路線に乗ってみたい!という方は、ぜひご覧ください。

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