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「SL冬の湿原号」の蒸気機関車と客車を4億円かけて修繕へ! JR北海道が観光列車に投資する狙いは?

鉄道ニュース

今やJR北海道で唯一となってしまったSL列車「SL冬の湿原号」。蒸気機関車や客車の老朽化に伴い、今後が懸念されていましたが、JR北海道は4億円をかけて、蒸気機関車の全般検査と修繕、客車のリニューアルを実施すると発表しました。年間収入が3億円の路線の観光列車に4億円をかけるJR北海道の狙いは何でしょうか?

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JR北海道唯一のSL列車「SL冬の湿原号」、蒸気機関車・客車の修繕を実施へ

JR北海道は、釧網本線の釧路~標茶間で冬季に運転しているSL列車「SL冬の湿原号」について、蒸気機関車(C11 171号)の全般検査と、5両の客車のリニューアルを実施すると発表しました。

概要は以下のとおりです。

  • 蒸気機関車(C11 171号)
    • 2021年に苗穂工場で全般検査を実施
    • ボイラーを大阪の業者へ搬送して修繕・性能検査を実施
    • 台枠・台車等主要部品の修繕を実施
  • 14系客車(1、3~5号車の4両)
    • サービス電源を新たな発電エンジンに交換(現在の型は製造中止のため)
    • 台車部品の交換を実施
    • 老朽化した車体外板の修繕、客車の腰掛・トイレの修繕等、内装のリニューアルを実施
  • カフェカー(2号車)
    • 老朽化した車体外板の修繕、内装のリフレッシュを実施

SLの全般検査は2021年度、客車の内装リニューアル工事は、2021年度と2022年度に分けて実施されるスケジュールとなっています。2021年度、2022年度の「SL冬の湿原号」の運転は実施する計画です。

検査や工事の費用としては、蒸気機関車(C11 171号)の全般検査に1億円、客車の内装リニューアル工事に2億円、客車の老朽機器の取り換えに1億円で、合計4億円を計画しています。

詳しくは、JR北海道のニュースリリースをご確認ください。

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年間の収入が3億円の釧網本線、4億円をかけてSL列車を修繕する意味は?

JR北海道は、「SL冬の湿原号」の全般検査と客車のリニューアルに4億円を投資するわけですが、実は、「SL冬の湿原号」が走る釧網本線は、全線での年間運輸収入が約3億円となっています。

JR北海道が公開しているデータによると、釧網本線(東釧路~網走間)の収入、費用、輸送密度は以下のとおりです。(単位は百万円、100百万円=1億円)

平成30年度
(2018年度)
令和元年度
(2019年度)
収入288304
費用1,7361,917
収支▲1,448▲1,613
輸送密度380372

(参考)釧網線(釧路・網走間)線区データ(東釧路・網走間)

令和元年度(2019年度)の実績では、3.04億円の収入に対して、費用が19.17億円、16.13億円の赤字となっています。

年間収入が3億円しかなく、毎年15億円前後の赤字となっている釧網本線を走るSL列車に、4億円を投資しようというわけです。

一見すると、馬鹿げた施策のように思えますが、JR北海道や釧網本線が置かれた状況を考えてみると、その意味が見えてきます。

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オホーツク海沿岸にある釧網本線の北浜駅

釧網本線は、全線が、JR北海道が「単独では維持困難な線区」に指定しています。「単独では維持困難」でありつつも、沿線自治体の支援を前提に、鉄道としての存続を目指している路線でもあります。

JR北海道の「単独では維持困難な線区」は、線区毎にさまざまな特徴がありますが、釧網本線の特徴は「観光路線」であることです。

「SL冬の湿原号」が走る釧路~標茶間は釧路湿原の風景が素晴らしい区間です。その少し北側には、摩周湖や屈斜路湖、川湯温泉といった観光地もあります。さらに、網走~知床斜里間はオホーツク海の絶景を眺められる区間で、毎年2~3月には流氷で埋め尽くされます。釧網本線からは少し離れますが、知床斜里からは、世界遺産「知床」へもアクセスできます。

このように、釧網本線沿線は観光資源の宝庫です。

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釧網本線沿線の観光地の一つ「摩周湖」

そんな釧網本線を活性化させるには、大勢の観光客に乗ってもらうしかありません。JR北海道全体で見ても、北海道新幹線の札幌延伸開業までの約10年間で増収を狙える施策といえば、観光しかありません。

そして、JR北海道にとって、観光の要となる路線の一つが釧網本線なのです。SL列車は相変わらず人気が高く、それ単体で観光客を呼べるコンテンツですが、釧網本線沿線の観光資源が加われば、観光路線として、非常に強い武器になります。「SL×観光資源」、これがJR北海道が「SL冬の湿原号」に投資する理由でしょう。

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3つの観光列車は釧網本線の稼ぎ頭!?

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釧網本線の観光列車の中でも一番の稼ぎ頭「くしろ湿原ノロッコ号」

釧網本線には、この記事で紹介した「SL冬の湿原号」(冬季、釧路~標茶間1日1往復)以外に、「流氷物語号」(冬季、網走~知床斜里間1日2往復)、「くしろ湿原ノロッコ号」(夏季、釧路~塘路間1日2往復)が運転されています。

JR北海道から2019年度の実績が発表されています。(2020年度は新型コロナウイルス感染症の影響を受けて大きく減っているため、2019年度のデータを掲載しています)

列車乗車人員合計1日あたり
平均乗車人員
運転日数
SL冬の湿原号9,483人431人22日
流氷物語号7,547人252人30日
くしろ湿原
ノロッコ号
85,596人611人140日

(出典)
2019年度「くしろ湿原ノロッコ号」のご利用状況について(JR北海道ニュースリリース 2019年10月18日 PDF)

釧網本線冬季観光列車のご利用状況について(JR北海道ニュースリリース 2020年3月12日 PDF)

前述のとおり、釧網本線全体の輸送密度は372(2019年度実績)です。

釧網本線の各観光列車が、釧網本線全体(東釧路~網走間166.2km)の輸送密度372に対して、どのくらい貢献しているかを計算してみます。

観光列車 乗車人員(人) 運転区間 営業キロ(km) 輸送人キロ 輸送密度
SL冬の湿原号 9,483 東釧路~標茶 45.2 428631.6 7.07
流氷物語号 7,547 網走~知床斜里 37.3 281503.1 4.64
くしろ湿原ノロッコ号 85,596 東釧路~塘路 24.3 2079982.8 34.29
合計 - - - 2790117.5 45.99

※「SL冬の湿原号」「くしろ湿原ノロッコ号」は、JR北海道の釧網本線の輸送密度の算出区間(東釧路~網走)にあわせて、東釧路~標茶・塘路間で計算
※乗車人員で示した人数が、全区間に乗車したと仮定

輸送密度は、釧網本線全体(東釧路~網走間)で均しています。例えば、「SL冬の湿原号」の輸送密度7.07というのは、釧網本線全体の372に対して、7.07(約2%)だけ貢献しているという意味です。

最も貢献しているのは、運転日数が多く、圧倒的に乗車人員が多い「くしろ湿原ノロッコ号」で、釧網本線全体の輸送密度に占める割合は9.2%。3つの観光列車の合計で12.4%となります。

季節限定、運転される区間も釧網本線全体から見ればごく一部に過ぎないこれらの観光列車で、1割以上の輸送人員を稼いでいるのです。さらに、収入に対する割合になると、もっと多くなるはずです。というのも、「SL冬の湿原号」と「くしろ湿原ノロッコ号」には指定席があるためです。指定席券(「SL冬の湿原号」は840円、「くしろ湿原ノロッコ号」は530円)の分だけ増収となるはずです。

さらに、JR北海道が公開している「駅間通過人員」(令和元年度)を見てみましょう。

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釧網本線の駅間通過人員(令和元年度)

(出典)釧網線(釧路・網走間)線区データ(東釧路・網走間)

「駅間通過人員」は、各駅間で1日あたり何人が乗車したかを示す数値です。線区の中で、どの区間の乗客数が多いかがわかるデータです。

定期(グラフのオレンジ色の部分)はほとんどが高校生でしょう。観光客は定期外(グラフの青色の部分)に含まれます。

定期外をよく見てみると、東釧路から塘路まではほぼ一定ですが、塘路から先で半分程度に減っているのがわかります。「くしろ湿原ノロッコ号」の運転区間が塘路までですので、東釧路~塘路間の定期外には、「くしろ湿原ノロッコ号」の乗客がかなり貢献していると見ることができます。

2019年度の「くしろ湿原ノロッコ号」の乗客数は1日あたり611人。運転日数は140日でした。これを1年間で均すと、1日あたり約234人となります。

  • 611人/日 × (140日 ÷ 365日) = 234.4人/年

東釧路~塘路間の定期外の1日あたりの乗客数が500人前後ですから、年間平均で比べても、その半分近くを「くしろ湿原ノロッコ号」が稼いでいることになります。

もちろん、観光列車だけで黒字化するのは困難ですが、釧網本線の今後は、観光列車抜きでは考えられないということはわかるでしょう。JR北海道が「SL冬の湿原号」にこれだけ投資する理由も、ここにあるのだと思います。

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観光列車までのアクセスもJR北海道がとることが重要!

ここまで見てきたように、JR北海道にとって、観光列車は、今後の増収を図るうえで重要な商材であることは間違いありません。

とはいえ、観光列車だけで、JR北海道の赤字を埋めるのは不可能です。

では、そうすればよいか? 重要なのは、観光列車までのアクセスにもJR北海道の列車を利用してもらうことです。

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札幌~釧路を結ぶ特急「おおぞら」

「SL冬の湿原号」であれば、札幌や新千歳空港から、釧路までのアクセスに、特急「おおぞら」を利用してもらうようにするのです。

「SL冬の湿原号」は、全区間乗っても、運賃1,290円+指定席券840円=合計2,130円。往復乗ったとしても4,260円にしかなりません。

一方、札幌~釧路で特急「おおぞら」を利用すれば、運賃6,820円+指定席特急券3,170円=合計9,990円にもなります。往復利用してもらえば、JR北海道にとっては約2万円の収入となります。

JR北海道は、多目的特急車両「はまなす編成」「ラベンダー編成」を製造したばかりですし、国と自治体が観光用の車両を購入して、無償でJR北海道に貸し付ける施策も動き始めています。

このような車両を活用して、道東などの観光地やSL列車が走るエリアへのアクセスも整備することが重要でしょう。


以上、『「SL冬の湿原号」の蒸気機関車と客車を4億円かけて修繕へ! JR北海道が観光列車に投資する狙いは?』でした。観光に活路を見出すしかない状況のJR北海道ですが、コロナ禍が明けたあと、これまで以上に観光列車が充実していることを期待したいところです。

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