鉄道・運輸機構は、2019年9月~10月に、青函トンネルで、北海道新幹線の高速走行試験を実施すると発表しました。速度は200~260km/hを予定しています。一方、国土交通省が、貨物新幹線の検討を始めたとの報道もあります。札幌延伸時に東京~札幌 4時間半を達成するには避けて通れない青函トンネルの速度向上問題。今後、どうなるのでしょうか?
青函トンネル内で200~260km/hの高速走行試験を実施
鉄道・運輸機構は、2019年9月~10月に、北海道新幹線 青函トンネル区間で、200~260km/hの高速走行試験を実施すると発表しました。
概要は以下の通りです。
- 試験期間: 2019年9月4日~10月21日
- 試験区間: 北海道新幹線 青函トンネル内
- 試験内容: 速度向上試験(200~260km/h)
北海道新幹線は、2016年の開業当初、青函トンネル内を140km/hで走行していました。これは、青函トンネル内で貨物列車とすれ違う際に、新幹線の風圧で貨物列車のコンテナが崩れるのを防ぐための措置でした。
その後、2019年3月のダイヤ改正で、160km/hまで速度が向上しています。これにより、東京~新函館北斗間の所要時間が4時間を切り、3時間58分となりました。
2020年度中に210km/h走行へ、ただし、特定時期の一部時間帯のみ
今回の高速走行試験は、2020年度中に青函トンネル内で210km/hでの走行を実現するためのものです。ただし、「特定時期の一部時間帯のみ」という条件が付きます。
これは、「時間帯区分方式」と呼ばれる方式を採用するためです。時間帯区分方式では、青函トンネル内で、貨物列車が運転されていない時期・時間帯に限り、北海道新幹線の最高速度を引き上げます。
つまり、貨物列車とのすれ違いの問題そのものを解決するわけではなく、青函トンネル内で貨物列車とすれ違わないようにして、速度を向上させるということです。
そのため、効果はかなり限定的となります。「貨物列車が走っていない時間帯も結構あるんじゃないの?」と思うかもしれませんが、深夜時間帯は運転されない新幹線とは異なり、貨物列車は時間帯を問わずに運転されています。しかも、青函トンネルを通る貨物列車の本数は1日で50本以上。北海道新幹線の本数よりもずっと多いのです。
ということで、「時間帯区分方式」は根本的な解決策にはなりません。
それでも、将来、何らかの解決策により、青函トンネル内で高速走行ができるようになるかもしれません。
北海道新幹線単独でも、青函トンネル内では、高速での走行試験は実施されていないと思われますので、まずは、北海道新幹線の最高速度である260km/hまでの試験を実施するということになったのでしょう。
本命は貨物新幹線? でも積載量は貨物列車の8分の1
一方、高速走行試験の発表と同じタイミングで、国土交通省が「貨物新幹線」を検討しているとの報道がありました。
簡単にまとめると以下のようになります。
- 宅配便や書籍などの荷物を「パレット」という車輪付きの荷台に乗せ、パレットごと車両側面のドアから積み込む方式
- 貨物新幹線の車両は、現行の旅客車両と同じ1編成44億円程度
- 最高時速は320km/hを想定
- 北海道に1か所、東北に3か所設ける積み替え拠点の整備費用に600~1,800億円を見込む
- 1編成あたりの最大積載量は約65トン(現在の貨物列車1編成で約500トン)
パレット式にすることで、既存の新幹線車両をベースに開発できるため、車両の開発費用は安く済むようです。
一方で、貨物新幹線1編成の最大積載量が約65トンと、貨物列車1編成(約500トン)に比べると8分の1程度しか貨物を運べないことになります。
コンテナからパレットにばらさなければなりませんし、必要な列車の本数が8倍になってしまいます。既存の貨物列車と比べて、「速達便」としてプレミア感を出すサービスはありそうですが、さすがに、現行の貨物列車の代わりとして利用することは難しそうです。
これまで、貨物列車のコンテナを丸ごと積み込める新幹線や、貨物列車の貨車ごと新幹線に積み込んでしまう「トレイン・オン・トレイン」方式も検討されてきましたが、最近は、あまり話を聞きません。
現行の貨物列車を完全に置き換えるのなら、パレット方式の貨物新幹線ではなく、最低でもコンテナを積載できる新幹線が必要になりそうです。
札幌延伸まであと10年、決定打はいまだになし?
JR北海道は、現在、経営危機に瀕していて、国や自治体から支援を受けて、何とか事業を維持している状況です。
2031年に予定されている北海道新幹線の札幌延伸開業までに、経営的に自立することを目標に再建を進めていますが、その前提となるのが、東京~札幌間の所要時間の短縮です。
現在の計画では約5時間ですが、これでは航空機に対して全く競争力がありません。これを、最低でも4時間半、できれば、4時間台前半まで短縮したいところでしょう。
360km/hでの運転を目指す試験車両「ALFA-X」(JR東日本)や、最高速度が260km/hに抑えられている整備新幹線区間(盛岡~新青森~札幌)の最高速度の引き上げなど、東北新幹線・北海道新幹線では、所要時間の短縮に向けてさまざまな施策が検討されています。
現在建設中の北海道新幹線 新函館北斗~札幌間の320km/h化についても、JR北海道が自社負担で実現することを国土交通省に要請しています。
青函トンネルの高速化については、現段階では、特定の時期に、一部の列車だけを210km/hで運転するというところまでしか見えていません。これが、全列車で260km/h、できれば、320km/hで運転できるようになれば、所要時間の短縮に大きく貢献するはずです。
何とか、早い段階で解決策を見つけて、2031年の札幌延伸開業までに実用化してほしいところです。
物流インフラとしての北海道新幹線の活用も!
今は、青函トンネル区間での北海道新幹線と貨物列車のすれ違い問題だけがクローズアップされていますが、もう少し先まで考えてみると、本州~札幌間の物流インフラとして、北海道新幹線を活用するところまで視野に入れてもよさそうに思います。
北海道新幹線が札幌まで開業すると、並行在来線として、函館~小樽(函館本線・山線)が経営分離されます。他の並行在来線と同様に、第三セクターとして存続することになると思われます。
一方、問題なのは、JR北海道のまま残る室蘭本線、特に、長万部~東室蘭です。現在は、札幌~函館を結ぶ特急「スーパー北斗」が頻繁に走っていますし、青函トンネルを通る貨物列車もこの区間を走行します。
ところが、北海道新幹線が札幌まで開業すると、現在の「スーパー北斗」は運転取りやめになるでしょう。そうなると、長万部~東室蘭を直通するのは普通列車が1日4往復のみ。それに対して、貨物列車は1日数十本も運転されています。この区間を、誰が維持管理するのかという問題が、一気に出てきそうです。
本州~札幌間の貨物輸送を北海道新幹線に移行できれば、バス転換も可能になります。鉄道ファンとしてはあまり考えたくないですが、JR北海道が、北海道新幹線と室蘭本線(長万部~東室蘭)の両方を維持していくのは厳しいでしょうから、現実的な問題として考えておく必要がありそうです。
以上、「青函トンネルで200~260kmhの高速走行試験を実施へ! 本命は貨物新幹線? 北海道新幹線の青函トンネル問題はどうなる?」でした。パレット方式の貨物新幹線の検討で一歩前進も、根本的な解決にはまだ遠い状況です。将来、貨物新幹線の札幌への直通も見据えて、今のうちから技術開発を進めてほしいところですね。
コメント
こんにちわ。
青函トンネル区間の新幹線速度向上については、
難産ですよね。
青函トンネルを含む共用区間も実際の所は整備
新幹線の一部ですから、本来なら新幹線だけの
運行なら260km/hで走ってもおかしくはありません。
因みにJR北海道の社長は、260km/h以上での
青函トンネル区間の走行は難しいと言っている
ようです。
岩手一戸・八甲田や、これから出来る渡島・札樽
などの陸上長大トンネルでは普通に260km/hで
通過していて、将来はこれらトンネルも320km/h
以上で通過するでしょうから、もっと長いけど青函も260km/h以上はOKとの意見も多々ありますが、やっぱり高速通過によるトンネル設備への負荷増を思えば、青函は最高でも260km/hで
充分に思います。
が、その260km/hにするためには貨物列車との
共用走行問題が出ますので、昨今はいっそのこと青函区間から貨物列車を締めし海運に転換 なんていう意見もありますが、どうなんでしょうね? 道内物流を考えたら貨物列車は絶対必要
という意見も多く見られます。
ロイスさん、こんにちは。
コメントありがとうございます。
列車の本数や経済への影響を考えると、貨物列車は必要でしょうね。
いっそのこと、青函トンネルだけでなく、札幌まで、新幹線で貨物を運んでしまえるような車両を作るのがよいのではと思うのですが、なかなか難しいのでしょうかね。
札幌延伸開業まであと10年あるので、何とか良い解決策を考えてほしい、と思います。