北海道と国が第三セクターの枠組みで観光用の車両を購入し、JR北海道に無償貸与する方針との報道がありました。JR北海道が自治体負担を前提に存続を目指す8線区での運行を想定しているとことです。経営危機のJR北海道を立て直す切り札、そして、8線区存続の決定打になるでしょうか?
北海道と国が観光用の車両を購入、JR北海道に無償貸与へ
報道によりますと、北海道と国が共同で新たに車両を買い取り、観光列車に活用できるように整備したうえでJR北海道に無償貸与する支援策を実施する方針を固めたとのことです。
これまで報道されている内容は以下のとおりです。
- 北海道と国が共同で新たに車両(観光列車用)を買い取りJR北海道に無償貸与
- 車両の購入・貸与には第三セクターの枠組みを活用
- JR北海道の「単独で維持困難な線区」のうち、国や自治体の支援を前提に存続を目指す8線区での運行を想定
- JR北海道は支援を受け入れ、新年度(2021年度)から観光列車を増発する方向で検討
報道のソースは以下の通りです。
- 道、観光列車購入へ JRに貸与 赤字区間で運行:北海道新聞 どうしん電子版
- JR北海道に車両貸与 国と道、経営支援の一環(共同通信) - Yahoo!ニュース
- JR支援で道が車両買い取りへ|NHK 北海道のニュース
北海道と国が「第三セクター」方式の枠組みで車両を買い取りJR北海道に無償貸与
今回の北海道と国のJR北海道への支援策は、北海道と国が「第三セクター」方式の枠組みを活用して車両を購入・保有して、JR北海道に無償で貸し付けるという点が特徴的です。
JR北海道としては、車両を購入する設備投資が不要になりますし、固定資産を保有しないことによる会計上のメリットもあると思われます。
自治体が第三セクター方式で車両や設備を保有して、鉄道会社に貸し付ける形態としては、山形新幹線開業時の「山形ジェイアール直行特急保有株式会社」の例があります。
山形新幹線開業のために福島~山形間の改良工事(標準軌への改軌工事など)を実施し、鉄道設備を保有するとともに、山形新幹線の初代新幹線車両400系も保有し、JR東日本に貸し付けていました。山形ジェイアール直行特急保有株式会社は、2018年3月に解散し、鉄道設備はJR東日本に譲渡されています。
今回の北海道と国の第三セクター方式での車両貸し付けは、報道によると3年間は無償で実施されるということですので、JR北海道にとっては、観光列車を運行する費用負担のみでよいということになります。
設備投資を伴わないため、観光列車の運行単体、あるいは、観光列車の乗車を含む旅行商品等で利益を上げられるのであれば、経営状態の厳しいJR北海道でも、積極的に運行できそうです。
JR北海道はどんな車両をどこで走らせるのか?
旅行好き・鉄道ファンとしては、どんな車両をどの線区で走らせるのかが気になりますね。
車両は自社または他社の中古を購入? 新製?
北海道と国が車両を「買い取る」とのことですが、買い取る対象は何でしょうか?
- JR北海道が保有している車両
- 他社(主にJR各社)が保有している車両
- 新たに鉄道車両メーカーに発注して新製する車両
一番手っ取り早いのが、JR北海道が保有している車両を買い取り、観光列車向けの改造を北海道と国が実施、そのまま保有するというパターンです。
JR各社の観光列車は、古い車両を改造して利用しているものが多く、その点でも合理的です。ただ、JR北海道が保有している車両は古いものが多いため、改造や整備をして利用できるもの残っているかが問題です。特急車両ならキハ183形、普通列車用ならキハ40系あたりが候補だと思いますが、いずれも古いので、整備しても利用できる期間は短そうです。
ただ、一部報道では、「JR北海道は新年度(2021年度)から観光列車を増発する方向で検討」とありますので、すぐに準備できるという意味では選択肢になるかもしれません。
同様に、JR他社の車両を買い取る案も検討されているのではないかと思います。ただ、JR北海道の路線で冬季に走らせるには、耐寒耐雪仕様(寒冷地仕様)が必要だったり、特急型でも気動車が必要になったりと、候補は限られそうです。JR他社との関係でいえば、JR東日本が一番の候補ですが、JR東日本には特急型の気動車がありません。
(出典)北海道鉄道140年の節目に「はまなす」編成がデビューします!(JR北海道ニュースリリース 2020年8月19日 PDF)
中長期的には、車両を新製することも検討されているかもしれません。JR北海道は、国からの支援を得て、定期特急列車にも観光列車にも利用できるキハ261系の「はまなす」「ラベンダー」の2編成(5両×2編成)を製造したばかりです。
「はまなす」編成は、2020年10月にデビューし、JR北海道の各路線で定期特急列車としても利用されています。
トロッコ列車や、特急券(あるいは指定席券)だけで乗れるカジュアルな観光列車なのか、2019年に東急から車両を借り受けて運転した「ロイヤルエクスプレス」のような豪華観光列車なのか、あるいは両方か。いずれにしても、どのような形で車両を調達して走らせるのか、興味は尽きないですね。
「単独で維持困難な線区」の8線区、どこで走らせるのか?
今回の北海道と国の支援は、JR北海道が国や自治体の負担を前提に存続を目指している「単独で維持困難な線区」の8線区の収益向上が狙いです。
「単独で維持困難な線区」の8線区と、現在運転されている既存の観光列車は以下の通りです。
路線 | 線区 | 既存の観光列車 |
---|---|---|
釧網本線 | 釧路~網走 | SL冬の湿原号 流氷物語号 くしろ湿原ノロッコ号 |
根室本線 (花咲線) | 釧路~根室 | - |
石北本線 | 旭川~網走 | - |
宗谷本線 | 名寄~稚内 | - |
富良野線 | 旭川~富良野 | 富良野・美瑛ノロッコ号 |
根室本線 | 滝川~富良野 | フラノラベンダーエクスプレス |
室蘭本線 | 苫小牧~岩見沢 | - |
日高本線 | 苫小牧~鵡川 | - |
「観光路線」の釧網本線や富良野線では、季節限定ではありますが、観光列車が運行されています。一方、観光客がそれなりに利用しそうな宗谷本線には、定期的に運行される観光列車がありません。
宗谷本線では、2019年の夏に、JR東日本から借り受けたトロッコ型気動車「風っこ」を利用して、「風っこそうや号」を運行、さらに、2021年5~6月には自社の観光向けの車両「山紫水明」を利用する「花たび そうや号」を運転する予定です。
北海道と国が保有する車両を自由に利用できるのであれば、宗谷本線で定期的に観光列車を運転することができるようになるのではと思います。
また、宗谷本線をはじめ、車窓が美しい花咲線などで、トロッコ列車を走らせてもよさそうです。ノロッコ号以外に「風っこ」のような気動車タイプのトロッコ車両があれば、機動的にトロッコ列車を運行できるようになるのではないでしょうか。
特急形の豪華観光列車であれば、札幌から上記の線区へ乗り入れる長距離の列車として走らせるのもありでしょう。
札幌から道東・道北への観光列車が重要!
上記の「単独で維持困難な線区」8線区で観光列車を走らせることで、多少の収益改善にはなるかもしれませんが、線区単位での黒字化は不可能でしょう。
そこで期待したいのが、札幌や新千歳空港で観光客を乗せて、道東や道北へ向かってくれる観光列車です。
上記の線区単体での黒字化は困難でも、札幌や新千歳空港からの特急利用も含めて、トータルでJR北海道の収益が向上するのであれば、観光列車を走らせる価値は十分にあります。
このモデルで上手くいっているのが、JR東日本の五能線です。五能線の輸送密度は全線で600人/日程度、日本海沿いを走る東能代~五所川原間では500人/日程度です。
(参考)路線別ご利用状況:JR東日本
JR北海道の基準に重ね合わせれば、一部区間は廃止になってもおかしくないレベルの閑散路線です。
ところが、現在は、観光列車「リゾートしらかみ」が1日2~3往復も走っています。「リゾートしらかみ」は3編成も車両があり、しかもそのうち2編成は改造車ではなく、新たに製造したものです。
JR東日本が「リゾートしらかみ」にここまで力を入れるのは、首都圏をはじめ、JR東日本エリアの各地から、東北新幹線や秋田新幹線を利用して、「リゾートしらかみ」の始発となる青森駅や秋田駅までやってきてくれるためでしょう。五能線や「リゾートしらかみ」単体では、たいした収益にならなくても、往復で新幹線を利用してくれれば、十分においしい商売になるのだと思います。
JR北海道は、このようなモデルが作れるかが課題になりそうです。
以上、「北海道と国が観光列車用の車両を購入、JR北海道に無償貸与へ! JR北海道の観光列車充実なるか?」でした。日本でも随一の観光資源を持つ北海道ですので、JR北海道はこのチャンスを何とかものにしてほしいところです。
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