JR北海道がバス転換を提案している根室本線の富良野~新得間について、沿線の7市町村でつくる協議会が、JR北海道との具体的協議に入る意向を示しました。バス転換か、年10億円の費用負担で存続か、できるだけ早く結論を出したいとしていますが、現実問題として、存続は厳しい状況です。
根室本線 富良野~新得間の扱いについて沿線自治体とJR北海道が協議入りへ
報道によりますと、JR北海道がバス転換を提案している根室本線の富良野~新得間について、沿線の7つの市町村でつくる根室本線対策協議会が、JR北海道との具体的な協議に入ることを決定しました。
報道の概要は以下のとおりです。
- 沿線の7つの市町村(滝川市、赤平市、芦別市、富良野市、南富良野町、新得町、占冠村)でつくる「根室本線対策協議会」が、7月6日に富良野市で会合を開いた
- JR北海道がバス転換を提案している根室本線の富良野~新得間について、バス転換か、維持管理費を自治体で負担して存続させるか、JR北海道と具体的な協議に入ることを決定
- 当面は期限を設けずにJR北海道と協議を重ねるが、できるだけ早く結論を出したいとしている
詳しくは、以下の記事をご覧ください。
JR北海道がバス転換を求める「赤線区」の一つ、被災前の輸送密度は152人/日
JR北海道は、2016年に発表した「単独で維持困難な線区」を、3つの線区に区分けしています。
- 赤線区: 輸送密度200人未満の線区
- 茶線区: (「単独で維持困難な線区」発表時に)既に話し合いを始めている線区
- 黄線区: 輸送密度200人以上2,000人未満の線区
根室本線の富良野~新得間は、輸送密度が200人/日以下の、いわゆる「赤線区」と呼ばれている線区の一つです。
赤線区・茶線区は、2016年の「単独で維持困難な線区」発表当時、5線区ありました。2021年7月現在の状況は以下のとおりです。
路線 | 線区 | 状況 |
---|---|---|
石勝線 | 新夕張~夕張 | 2019年4月に廃止 |
日高本線 | 鵡川~様似 | 2021年4月に廃止 |
札沼線 | 北海道医療大学 ~新十津川 | 2000年5月に廃止 |
留萌本線 | 深川~留萌 | 運行中、バス転換に向けて協議中 |
根室本線 | 富良野~新得 | 運行中(一部代行バス) 今回協議入り |
2016年当時は5線区あった「赤線区」「茶線区」ですが、2021年7月現在、3線区は廃止され、残りは留萌本線(深川~留萌)と、今回協議入りする根室本線(富良野~新得)です。
根室本線の富良野~新得間のうち、南側の東鹿越~新得間は、2016年8月の台風により被災し、5年近くが経過した現在も復旧作業に入っていません。現在は代行バスが運行されていますが、2021年のダイヤ改正で減便されてしまいました。
被災前の2015年度の根室本線の富良野~新得間の輸送密度は152人/日で、現在、JR北海道が鉄道として運行している線区では、最も低くなっています。
一方、他の4線区とは異なり、富良野~新得間は、滝川~釧路~根室を結ぶ長大な根室本線の一部をなしています。他の4線区は、終着駅や途中駅で別の路線と接続していない、いわゆる盲腸線(行き止まり路線)でした。
国と道の支援が得られない「赤線区」、鉄路を維持するには毎年10億円の負担が必要
JR北海道は、富良野~新得間の鉄道を維持していくためには、毎年約10億円の支援を必要としています。もし、鉄道として存続させようとすると、沿線の自治体が、この10億円を負担する必要があります。
というのも、JR北海道に対して財政的な支援を実施している国や道が、「赤線区」を支援の対象外としているためです。
国土交通省は、2020年12月に、令和12年度まで、JR北海道に対して継続して支援を実施することを発表しています。また、令和元年度・2年度の416億円に加えて、令和3~5年度の3年間で1,302億円の支援をすることを発表しています。
この中で、「黄線区」への支援については明記されていますが、「赤線区」については言及されていません。JR北海道がバス転換を提案している線区については、国からの支援に盛り込まないという方針があるようです。
さらに、北海道は、2017年2月に「将来を見据えた北海道の鉄道網のあり方について」というレポートをまとめています。
このレポートでは、直接的に各線区のあり方を述べているわけではなく、各線区を以下の6つに分類して、それぞれの分類に対しての今後のあり方を示しています。
- 札幌圏と中核都市等をつなぐ路線
- 広域観光ルートを形成する路線
- 国境周辺地域や北方領土隣接地域の路線
- 広域物流ルートを形成する路線
- 地域の生活を支える路線
- 札幌市を中心とする都市圏の路線
根室本線の富良野~新得間は、おそらく2か5に該当すると考えられます。富良野という観光地に通じる路線としてとらえれば「2」に該当します。ただ、富良野への観光は、主に富良野線(旭川~富良野)が担っているという実態もあります。「2」に該当しないとすると、おそらくは「5」でしょうか。
5の「地域の生活を支える路線」については、上記のレポートでは、以下のようにまとめられています。
利用者の大幅な減少により、収支が極めて厳しい線区については、他の交通機関との連携、補完、代替なども含めた最適な地域交通のあり方について、JR北海道をはじめとする交通事業者や国、道の参画のもと、地域における検討が必要である。
(出典)将来を見据えた北海道の鉄道網のあり方について(北海道 鉄道ネットワークワーキングチーム)
国や道のこのような考え方を考慮すると、富良野~新得間の鉄路を維持していくためには、沿線の自治体で費用負担をするしかないわけです。
とはいえ、毎年10億円の負担をし続けるというのは、現実的には不可能でしょう。
福島県が存続を後押しした只見線、北海道が事実上バス転換を容認した根室本線
非常に乗客の少ないローカル線の一部区間が自然災害で被災した例としては、JR東日本の只見線(会津川口~只見間)があります。2011年7月の豪雨被害で、複数の橋梁が流出するなど、甚大な被害を受けました。
JR東日本は、鉄道としての復旧ではなくバス転換を提案していました。ところが、福島県と沿線自治体は、復旧工事費用の3分の2を負担することと、上下分離方式を採用することを条件に、JR東日本と鉄路での復旧を合意。2022年中の運転再開を目指して、JR東日本が復旧工事を進めています。

只見線の例では、福島県と沿線自治体が負担する復旧費用は54億円、年間の設備維持費は2.1億円と試算されています。
只見線が鉄路での復旧を成しえたのは、福島県が後押しをしたことが大きいと思います。地域の足としてだけでなく、地域振興の核として只見線を活用したいという意向を持っているようです。
一方、根室本線の富良野~新得間では、北海道は事実上、バス転換を容認しています。JR北海道は、他に「黄線区」と呼ばれる、都市間輸送や貨物輸送に重要な線区についても維持困難としており、北海道としてはそちらの支援を優先せざるを得ないという事情もあるでしょう。
結局、ローカル線の、それも最も乗客が少ない区間では、沿線自治体の支援だけで鉄路を存続させることは不可能で、県の意向がその命運を握っているということになりそうです。
かつての「日本三大車窓」、狩勝峠を超える車窓が素晴らしい区間!
今回、存続の協議に入る根室本線の富良野~新得間は、空知川やかなやま湖、そして、狩勝峠からの絶景が素晴らしい区間です。
現在の線路は新たに付け替えられたものですが、旧線は「狩勝峠」を超えていて、篠ノ井線の姨捨駅(JR東日本)、肥薩線の矢岳越え(JR九州)と並んで、日本三大車窓の一つに数えられていました。現在の新線は、旧線ほどの絶景ではありません。
ところが、前述のとおり、東鹿越~新得間は鉄道が不通となっていて、代行バスが運転されています。実は、この代行バスが狩勝峠を通るのです。あくまで代行バスのため、駅がない狩勝峠には停車しません。それでも、車窓からは、一瞬ではありますが、広大な十勝平野の一望することができます。
2020年8月に富良野~新得間を、代行バスも含めて乗車したときの記録を記事にしていますので、ぜひご覧ください。

そして、この記事で述べたように、この区間の鉄道での復旧は、残念ながら、ほぼ絶望的と言ってよい状況です。鉄道ファンとしては残念ですが、今のうちに在りし日の姿を目に焼き付けておくのもよいのではないでしょうか。
以上、「根室本線 富良野~新得間、沿線7市町村自治体がJR北海道との具体的協議へ!バス転換か存続か?」でした。残念ながら、鉄路での復旧はかなり厳しい状況と言わざるを得ませんが、今後のJR北海道と沿線自治体の協議の行方を見守りたいと思います。
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