JR北海道 釧路支社は、春~秋にかけて運行している「くしろ湿原ノロッコ号」の利用実績を発表しました。このデータから、JR北海道のローカル線にとって、観光列車がいかに重要かがわかります。
JR北海道の定番観光列車「くしろ湿原ノロッコ号」
「くしろ湿原ノロッコ号」は、JR北海道の釧網本線の南端にあたる釧路~塘路(とうろ)間を走るトロッコ列車です。釧路湿原の東端を走るため、車窓からは、広大な釧路湿原と、その中を蛇行する釧路川を一望できます。
ディーゼル機関車が4両のトロッコ客車を牽いて走るトロッコ列車で、天気の良い時には窓が外されて、とても開放的です。
ずいぶん前ですが、北海道に鉄道旅行に行ったときに乗車しました。
釧路支社が「くしろ湿原ノロッコ号」の利用実績を発表!
JR北海道 釧路支社は、平成29年度の「くしろ湿原ノロッコ号」の利用実績を発表しました。
平成29年度「くしろ湿原ノロッコ号」ご利用状況について(JR北海道釧路支社 プレスリリース 2017年12月11日,PDFファイル)
これによると、平成29年度の実績は以下の通りです。
平成28年度 | 平成29年度 | |
---|---|---|
運行日数 | 106日 | 132日 |
合計乗客数 | 59,692人 | 77,285人 |
一日平均乗客数 | 563人 | 590人 |
平成28年度と比べるとかなり増えています。平成28年度は、北海道を襲った台風の影響で、運行日数が少なかった影響があるようです。ただ、1日当たりの平均乗客数も増えていますので、平成29年度は総じて好調であったと言ってよいでしょう。
釧網本線にとっては稼ぎ頭??
ここで、JR北海道が先日公表した「当社単独では維持することが困難な線区」の線区データと比較してみると、釧網本線にとっての「くしろ湿原ノロッコ号」の重要性がわかります。
「くしろ湿原ノロッコ号」の運転区間は、釧網本線の一部に過ぎませんので、線区データのうち「駅間通過人員」と比較してみます。下記リンクのPDFファイルの6ページ目にあります。
「駅間通過人員」というのは、上記の「線区データ」のサイトの説明によると、
きっぷの発売状況に基づき、1日あたりのお客様の駅間ごとの人数を表します。
とのことです。
「くしろ湿原ノロッコ号」の運転区間にあたるデータ(平成28年度)を抜粋してみます。
区間 | 通過人員(人/日) |
---|---|
東釧路 - 遠矢 | 739 |
遠矢 - 釧路湿原 | 730 |
釧路湿原 - 細岡 | 712 |
細岡 - 塘路 | 708 |
だいたい700人台前半といったところです。この区間は、釧路の市街地に近く、釧網本線の中でも最も乗客数が多い区間でもあります。
一方、前述の通り、「くしろ湿原ノロッコ号」の1日あたりの平均乗客数は590人。「くしろ湿原ノロッコ号」は釧路~塘路間を1日1~2往復しますが、その列車だけで、同区間の通過人員の約8割にあたる乗客を運んでいます。
駅間通過人員のデータに「くしろ湿原ノロッコ号」が含まれているかは、明確な記載がないのでわかりません。「きっぷの発売状況に基づき」とあるので、指定席券が売れた分は計上されているかもしれません。
さらに、「くしろ湿原ノロッコ号」は、4両編成のうちトロッコ型の3両は指定席。乗車券に加えて、520円の指定席券が別途必要です。釧網本線の普通列車・快速列車はすべて自由席ですので、同じ区間で見れば、「くしろ湿原ノロッコ号」のほうが乗客一人当たりの収入は多くなるはずです。
このように、釧網本線にとって「くしろ湿原ノロッコ号」は貴重な収入源であることがわかります。
JR6社の中で最も観光資源に恵まれたJR北海道、観光列車にもっと力を入れるべきでは?
JR北海道は、JR6社の中では最も経営状況が厳しく、今のままでは数年以内に破綻してしまうというところまで追いつめられています。その理由としては、過疎化による乗客数の減少、厳しい自然環境による設備投資の増大などが挙げられています。
一方で、JR北海道は、JR旅客6社の中で、最も観光資源に恵まれているということも言えます。
これらを考え合わせると、JR北海道のローカル線を維持するとしたら、いかに観光客に乗ってもらうか、これに尽きると思います。
もちろん、それだけで釧網本線のようなローカル線が黒字になることはあり得ませんが、うまく周遊ルートを組んで、観光列車までのアクセスに新幹線や特急を使ってもらえるようにして、トータルで利益を出していくような戦略が取れるはずです。
よい例が、JR東日本の五能線です。観光列車「リゾートしらかみ」に乗るために、首都圏から東北新幹線や秋田新幹線に乗って観光客がやってきてくれます。五能線単体では赤字でしょうけれど、往復新幹線に乗ってもらえれば十分利益が出るのでしょう。
現在、協議が始まっている「当社単独では維持することが困難な線区」に関しても、路線単独での収支だけでなく、観光客向けの周遊ルートを考慮して、JR北海道トータルとして考えていくことが重要になりそうです。
以上、「くしろ湿原ノロッコ号」の利用実績についての話題でした。ローカル線にとって、観光列車による収入がいかに重要であるかがよくわかる、とても興味深いデータです。JR北海道の観光列車はどんどん減っていますが、それでは乗客も減る一方なので、インバウンドの観光客も含めて、観光に鉄道を使ってもらえるような施策を考えてほしいと思います。
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