国土交通省は、経営難に陥っているJR北海道に対して、2019~2020年度の2年間で総額400億円の支援を実施することを発表しました。JR北海道は2030年度までの長期支援を求めていましたが、今後の収支改善の状況を見ながら追加の支援をする方針です。
JR北海道に2年間で400億円の支援
国土交通省は、JR北海道に対して、2019年~2020年度の2年間で総額約400億円の支援を実施すると発表しました。
JR北海道は、北海道新幹線が札幌まで延伸開業する2030年度までの長期支援を求めていましたが、まずは期限を切って2段階で支援を実施することになりました。
- 「第1期集中改革期間」: 2019~2020年度
- 「第2期集中改革期間」: 2021~2023年度
今回の400億円規模の支援は、「第1期集中改革期間」の支援ということになります。
JR北海道に求める経営改善の取り組み
今回、国土交通省が発表した「JR北海道の経営改善について」の中で、単独で維持困難な線区については、
- 事業範囲の見直し
- 利用が少なく鉄道を持続的に維持する仕組みの構築が必要な線区
と2つに分けて記載されています。
前者は、
事業範囲の見直しについては、鉄道よりも他の交通手段が適しており、利便性・効率性の向上も期待できる線区において、地域の足となる新たなサービスへの転換を進める。
(出典)JR北海道の経営改善について 平成30年7月27日 国土交通省(PDFファイル)
と書かれていますが、要は鉄道廃止・バス転換ということです。
これに該当する線区は、すでに報道されているとおり、札沼線(北海道医療大学~新十津川)、留萌本線(深川~留萌)、根室本線(富良野~新得)、日高本線(鵡川~様似)に加えて、すでに2019年3月末で廃止が決まっている石勝線夕張支線(新夕張~夕張)の5線区でしょう。
支援の条件として、国土交通省からこのように求められているため、夕張支線以外の4線区も、廃止・バス転換となることが濃厚です。
残りの7路線8線区、2023年頃にまた路線の見直しか?
一方、後者については、
また、利用が少なく鉄道を持続的に維持する仕組みの構築が必要な線区においては、平成31年度及び平成32年度を「第1期集中改革期間」とし、JR北海道と地域の関係者が一体となって、利用促進やコスト削減、実証実験や意見聴取などの取組を行い、持続的な鉄道網の確立に向け、2次交通も含めたあるべき交通体系について、徹底的に検討を行う。
とされています。
(出典)JR北海道の経営改善について 平成30年7月27日 国土交通省(PDFファイル)
こちらに該当するのは、以下の7路線8線区でしょう。
- 宗谷線(名寄~稚内)
- 石北線(新旭川~網走)
- 根室線(滝川~富良野)
- 富良野線(富良野~旭川)
- 釧網線(東釧路~網走)
- 根室線(釧路~根室)
- 日高線(苫小牧~鵡川)
- 室蘭線(沼ノ端~岩見沢)
今回のJR北海道の路線の見直しは、前述の5線区の廃止・バス転換という方向性が見えてきたと思っていたのですが、支援の期間が短期間となることで、「集中改革期間」の最終年度となる2023年度に路線の見直しが再燃する恐れが出てきました。
前述の「JR北海道の経営改善について」でも、
JR北海道と地域の関係者は、集中改革期間における取組の結果を毎年度検証し、最終年度(平成35年度)には総括的な検証も行う。その際、利用者数等の目標に対する達成度合い等を踏まえ、事業の抜本的な改善方策についても検討を行う。
と書かれています。
「事業の抜本的な改善方策」というのが何を示しているのかわかりませんが、「集中改革期間」の5年間で収支の改善が見られなかった路線は、再び路線廃止の議論が出てくるのではないでしょうか。
短期間での鉄道事業の収支改善は困難
赤字を削減するには、収入を増やす(増収)か、コストを減らすかのどちらかしかありませんが、現在のJR北海道の置かれた状況では、5年間という短期間で結果を出すのは簡単ではありません。
一般に、鉄道事業で大幅な増収を実現するには、新線の開業しかありません。しかし、JR北海道が予定している新線の開業は、2031年度の北海道新幹線札幌延伸までありません。そのうえ、北海道は人口減少が先行して進んでいます。乗客のパイが減っている状況で増収を実現するのは至難の業でしょう。
一方、JR北海道にコスト削減の余地が残っているのかといえば、こちらも厳しい状況です。そもそも、安全対策のコストを削ってしまったために、過去数年間に事故や安全問題が頻発してしまったわけですから。それに、冬季の環境が厳しい北海道では、路盤や線路の維持管理や除雪費用がとても重く、利用客の少ない駅の廃止や列車の削減などをしても、コスト削減効果は限られています。
つまり、短期間で大幅なコスト削減を実現できる施策は、赤字路線の廃止しかありません。2023年度以降の支援の条件として、大幅な収支の改善を求められたら、今回は維持する7路線8線区についても、路線の見直し議論が再燃しかねない状況なのです。
このように、JR北海道の経営難は構造的な問題です。さらに言えば、この先、JR四国でも同様の状況になるでしょうし、上場している他のJR4社でも、民間会社として赤字路線を本当に維持すべきかという問題が出てくるでしょう。
この5年間で、JR北海道に経営努力を求めるのであれば、国は、この構造的な問題に対して、将来の公共交通機関がどうあるべきかの指針を示す必要があるでしょう。
以上、JR北海道に2年間で総額400億円の支援を実施するという話題でした。まずは2020年度までの2年間で、JR北海道の経営改善がどのように進むのか(進まないのか)に注目です。赤字の補填だけでなく、観光列車への投資など、将来の収入増につながる施策にも力を入れてもらいたいですね。