JR北海道は、「当社単独では維持することが困難な線区」に該当する11線区の詳細なデータを公表しました。JR北海道発足時から列車本数はほとんど変わっていないものの、輸送密度(乗車人員)は激減。非常に厳しい経営状況が見えてきました。
「当社単独では維持することが困難な線区」の詳細データを公開
JR北海道は、2017年12月8日、「当社単独では維持することが困難な線区」に該当する11線区の詳細なデータを公開しました。
公開されたデータは以下の通りです。
- 輸送密度の推移
- 定期列車本数の推移
- 駅別乗車人員
- 列車別乗車人員
- 駅間別乗車人員
- 駅間通過人員
- 定期券月平均発売枚数
- 線区別収支状況
- 土木構造物の今後(20年間)の大規模修繕・更新費用(概算)
非常に膨大なデータが公開されています。今後の、沿線自治体や北海道、国などとの協議に向けて公開したものと思われます。もっと早く、「当社単独では維持することが困難な線区」を公表した2016年11月の時点で公開していてもよかったと思いますけどね。
それはともかく、これらのデータが、今後、北海道の公共交通のあり方を議論するのに役立つことを願います。
公開されたデータが膨大なので、全て見られているわけではないのですが、以下では、いくつかの観点で分析してみたいと思います。
列車本数は変わらないものの輸送密度は激減!
列車本数と輸送密度の、昭和62年(JR北海道発足時)と平成28年の推移を見てみます。
線区 | 列車本数の推移 | 輸送密度の推移 |
---|---|---|
札沼線(北海道医療大学-新十津川) | 15 → 15 (±0%) | 341 → 64 (‐81%) |
根室線(富良野-落合) | 17 → 13 (-24%) | 580 → 154 (-73%) |
留萌線(深川-留萌) | 17 → 17 (±0%) | 418 → 188 (-55%) |
宗谷線(名寄-稚内) | 21 → 15 (-28%) | 751 → 364 (-51%) |
根室線(釧路-根室) | 20 → 16 (-20%) | 1006 → 457 (-54%) |
根室線(滝川-富良野) | 22 → 19 (-14%) | 725 → 432 (-40%) |
室蘭線(沼ノ端-岩見沢) | 18 → 16 (-11%) | 1629 → 477 (-71%) |
釧網線(東釧路-網走) | 18 → 14 (-22%) | 846 → 463 (-45%) |
日高線(苫小牧-鵡川) | 21 → 17 (-19%) | 1283 → 462 (-64%) |
石北線(新旭川-網走) | 32 → 31 (-3%) | 2415 → 980 (-59%) |
富良野線(富良野-旭川) | 38 → 38 (±0%) | 2056 → 1545 (-25%) |
※列車本数は、線区間内の最も本数の多い区間で比較,輸送密度は1日1kmあたりの乗車人員[人],カッコ内は増減率
(出典)輸送密度の推移(PDFファイル),定期列車本数の推移(PDFファイル) より抜粋
もともと列車の本数が多い区間ではないので、利便性を考えるとこれ以上減らせないという要因もあるかと思いますが、ほとんど本数が減っていないことに驚きです。
一方、30年間で、輸送密度は激減。ほとんどの線区で半減より悪化しており、中には8割減という線区もあります。
列車の本数が減っていないので、運行にかかわる経費は減りませんが、運賃収入は半分以下に減っている。これがJR北海道のローカル線の現状です。
輸送密度の推移(PDFファイル) のグラフを見てみると、多くの線区で、
- 平成5年~平成15年頃の10年間で大きく輸送密度が減っている
- 平成15年以降現在までは漸減が続いている
ということがわかります。平成5年以降で輸送密度が大きく減っているのは、団塊ジュニア世代が通学年齢を超えて列車を利用しなくなったり、北海道内の高速道路網が整備されたりといった要因があるものと思います。それ以降も、人口減少の影響を受けているのでしょう。
ローカル線の需要は朝と夕方に集中
今回公開されたデータの中で、「列車別乗車人員」というのが興味深いです。
「当社単独では維持することが困難な線区」の全ての定期列車について、主な区間ごとの乗車人員を調査したものです。平成28年度の特定の日(平日)に調査したものとのことです。
これを見ると、ほぼすべての線区の普通列車で、
- 朝は6時台~7時台、夕方は16時~19時台の列車の乗車人員が多い(数十~200名程度)
- 上記のピーク時以外は、極めて乗客が少ない(乗客数一桁の列車も珍しくない)
ということがわかります。
ローカル線を支えているのは、高校生の通学需要であるということが如実にデータに現れています。
逆に言うと、それ以外の時間帯は極めて乗客が少ないです。これは、JR北海道に限らないことですが、ローカル線を旅しているとよくわかります。朝や夕方の通学・帰宅時間帯は、1~2両の列車が満員になりますが、それ以外の時間帯はほとんど乗っていません。
その高校生も、少子化の影響で徐々に減っていっています。輸送密度が漸減傾向なのは、やはり通学に利用する高校生が減っていることと関係がありそうです。
公表されたデータを活かした建設的な議論を期待
これまで見てきたように、「当社単独では維持することが困難な線区」の状況は極めて厳しい状況です。
ただ、厳しいとはいえ、区間や時間帯などによって、乗客数がかなり異なることもわかります。また、線区別の収支状況も公開されており、路線を維持していくために必要な費用を算出するためのデータも揃っています。
JR北海道と沿線自治体や道・国との協議はこれからが本番となりますが、このようなデータを活用して、現実的で建設的な議論ができるとよいと思います。路線を維持したいがために、沿線自治体が無理やり費用負担したとしても、自治体の財政が悪化してしまえば、早晩廃線になってしまうでしょう。そういったことにならないよう、将来を見据えた計画を立ててほしいものですね。