高波による被害で2015年から不通が続く日高本線ですが、JR北海道が正式に廃止・バス転換を表明したのに対して、沿線の自治体の7町長は、DMVの導入を目指して、DMV検討組織を立ち上げることを決めたようです。被災区間の鉄路復旧をあきらめてのDMV導入ですが、現時点では課題が多く、あまり現実的ではなさそうです。
沿線の7町と北海道がメンバーとなるDMV検討組織を設置
報道によりますと、3月25日開催された日高線沿線自治体協議会の会合後に、DMV検討組織の設置を表明したようです。
メンバーは日高線沿線自治体協議会の会員である沿線の7町と北海道とのことですが、日高線沿線の他の自治体にも参加を呼び掛けていくそうです。一方で、地域での合意形成を優先し、JR北海道はメンバーとしない方針だそうです。
沿線自治体が被災区間の復旧断念を表明したことで、JR北海道との協議が進むかに思われましたが、今回のDMV検討組織の設置で、再び事態は混沌としてきました。
DMV導入のハードルはかなり高い
日高線へのDMV導入のハードルは、費用、運行の両面でかなり高いと言わざるを得ません。
老朽土木構造物の維持更新に今後10年間で数十億円の費用が必要
JR北海道が昨年11月に発表した「当社単独では維持することが困難な線区について」によると、日高線の鵡川~様似間で鉄道を維持するためには、災害区間の復旧費用に加え、
- 老朽土木構造物の維持更新費用として今後10年間で53億円程度が必要
- 海岸浸食対策として離岸堤の整備が別途必要
となっています。
(参考)当社単独では維持することが困難な線区について(JR北海道)
これは、被災区間をすべて復旧させた前提での試算と思われますが、鵡川~様似間は116kmと長く、被災区間を除いたとしても、設備の維持更新に同程度の費用がかかるでしょう。
DMV導入には、被災区間を除いた鉄路を維持していく必要があることから、10年間で数十億円という費用を沿線自治体が負担できるのかが大きな課題となりそうです。
雪に弱いDMV、雪が少ない日高地方でも対策は必要かも?
DMVは、通常の鉄道車両に比べるとかなり軽量のため、雪に弱いという課題があります。実際、2005年には、札沼線での試験運転中に、踏切内に積もった雪に乗り上げて脱線したことがありました。
ローカル輸送の次世代車DMV、雪に足元をすくわれる | レスポンス(Response.jp)
大雪であれば仕方がないものの、当時の積雪は10センチ程度だったそうです。一般の鉄道車両であれば全く問題のない積雪量だと思いますが、車体が軽いDMVでは雪の上に乗り上げてしまうのですね。
現在よりも除雪を頻繁に行わなくてはならないということになり、冬季の運行には費用がかかりそうです。
鉄道にも路線バスにも劣る輸送力
DMVの輸送力にも課題があります。DMVはマイクロバスの車体をベースに作られていますので、定員は30名ほどです。これは、鉄道車両はおろか、路線バスよりもかなり少ないことになります。
これでは、沿線住民の足としても心もとないですし、観光客を呼べたとしても、この輸送力ではたいした収入にはならないように思います。
DMV導入による費用対効果の見極めが必要
これまで述べてきたように、DMVの日高線への導入はかなり難しいと思います。
日高線のほぼ全区間に渡って、国道235号線が並行しています。細切れになった線路を無理に活用して輸送力の小さなDMVを走らせるより、国道235号線に路線バスを走らせたほうが、沿線住民にとっては利便性が高いでしょう。
観光客向けにDMVを活用する案も出ているようですが、DMVそのものが観光の目玉になるとは思えません。最初は珍しいもの見たさで観光客が集まるかもしれませんが、それも一時的なものでしょう。観光客を観光地へ誘導するのにDMVが必要だというのであればわかりますが…。
乗り鉄としては鉄路がなくなるのは悲しいですが、沿線住民の利便性を考えると、早めに鉄道廃止を受け入れ、JR北海道に対して代替となる路線バスの充実を要求していくほうが望ましいと思います。
JR北海道の赤字路線整理の最初のケースでしょうから、JR北海道も協力する姿勢は見せつつ、設備投資がかかるような協力はしないのではないかと思います。このDMV検討組織でどんな結論が出るのか、見守っていきたいと思います。