JR北海道が、かねてから計画していた電気式気動車「H100形」の導入を、資金難を理由に見送ることになりそうです。使用開始から30年以上を経た国鉄時代の古い車両「キハ40形」などを置き換える予定でしたが、当面は古い車両でやりくりすることになりそうです。自然環境の厳しい北海道、車両故障や廃車などで、普通列車の運行に影響が出ることが懸念されます。
- 電気式気動車「H100形」の導入を延期へ
- JR東日本が開発した電気式気動車「GV-E400系」と同仕様の「H100形」
- 国の支援決定後に「H100形」導入見送りへ
- 経営再建や普通列車運行への影響は?
- 国の短期支援の悪影響?
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電気式気動車「H100形」の導入を延期へ
報道によりますと、JR北海道は、新型の電気式気動車「H100形」約70両ほどの導入を見送る見込みだということです。
上記の記事によりますと、JR北海道が保有している一般気動車(普通列車に用いる気動車)205両のうち、使用開始から一般的な車両寿命とされる30年以上を経た車両が164両あるそうです。数年をかけて、これらのうち70両ほどを置き換える計画だったそうですが、資金確保の見通しが立たないということで、見送りになるそうです。
JR東日本が開発した電気式気動車「GV-E400系」と同仕様の「H100形」
「H100形」は、JR東日本が開発した電気式気動車「GV-E400系」に、北海道独自の耐寒仕様を盛り込んだ車両です。JR北海道の普通列車用の主力車両「キハ40形」などを置き換える目的で開発されました。
「H100形」は電気式気動車といって、燃料(軽油)を燃やして得られた動力で発電機を回し、発電した電気でモーターを動かして走行する仕組みの車両です。従来の気動車が軽油を燃やして得られた動力をそのまま車軸に伝えるのとは異なります。
JR北海道は、2017年7月に「H100形」の試作車(量産先行車)2両を開発していることを公表していました。
さらに、2018年2月には、試作車2両が完成し、2月下旬から走行試験を開始することを明らかにしていました。
国の支援決定後に「H100形」導入見送りへ
JR北海道がH100形の試作車を製造し、試験運転を開始したのはつい半年ほど前の話です。
それなのに、急遽、導入を見送ることになったのは、国からのJR北海道への支援が、JR北海道が予想をしていたよりも少ない2年間で400億円となったためです。
前述の報道によると、
更新費用は1両当たり約2億~3億円。新型車両への更新が進めば燃費向上や整備・修繕費用の抑制など、経営改善につながる。そのためJRは国に、車両更新費用も含め30年度まで、年300億円の支援を求めたが認められなかった。
(出典)JR北海道、普通列車用気動車の更新見送り 資金確保見通せず:どうしん電子版(北海道新聞)
とあり、車両更新の支援は認められなかったということです。
経営再建や普通列車運行への影響は?
上記の報道でも触れられていますが、新型車両の導入を延期することによる経営再建への影響はないのでしょうか?
これで思い出されるのが、2017年3月のダイヤ改正です。
このダイヤ改正で、JR北海道は、老朽化した特急形気動車(キハ183系)を廃車にし、北海道新幹線開通で余剰となった特急形電車(789系)に一部置き換えました。この影響で、札幌~稚内・網走を結ぶ直通の特急列車は大幅に削減され、旭川での乗り換えが必要となってしまいました。列車の本数は変わらないものの、利用者に不便を強いる改悪となったのです。
本来であれば、特急形気動車を新製して対応するところでしょうけれど、JR北海道の経営状態ではそれが難しかったのでしょう。
今回の対象は普通列車ですが、似たようなことが起こらないとも限りません。老朽化した車両を使い続けていれば、故障による運休は増えるでしょうし、最悪の場合、廃車による列車減便という事態にもなりかねません。減便で不便になれば乗客が減り、さらに減便へ…という負の連鎖に陥る可能性があります。
国の短期支援の悪影響?
車両更新は鉄道会社にとっては重要な設備投資です。
最低でも、これまで通りの運行を続けるために必要な投資です。さらに、新型車両は、30年以上も前に設計・製造された車両に比べれば燃費もいいでしょうし、メンテナンス性も高く維持コストも低いでしょう。
サービス面でも、新型車両は大きく改善されています。H100形には、JR北海道のキハ40形にはない冷房を搭載するようですし、トイレなどもバリアフリー対応のものになります。
コスト削減・サービスの両面で重要な車両更新ですが、国の支援が2年間という短期で切られてしまったため、資金調達の見込みが立たずに見送りとなってしまいました。
そもそも、鉄道車両の寿命は30年、線路や駅といった設備はさらに長期にわたって利用するものです。こういったインフラを計画的に維持・更新していくためには、数十年先を見た投資が必要です。
今回の国のJR北海道への支援は、JR北海道の経営改善に向けた努力を促すために、まずは期間を2年間とし、その間の成果をもとに、次の支援を決定するというスキームになっています。この考え方自体は間違っていないですし、血税を投入して支援をする以上、政治的にも必要な判断だったのでしょう。
ただ、JR北海道が将来に渡って自立した経営をできるようするためには、長期を見据えた投資が欠かせません。単純にすべての支援を短期間で区切るのではなく、将来に向けた投資に充てる分は長期の支援とするなどの工夫が必要だったのかもしれません。
以上、JR北海道が新型の電気式気動車「H100形」の導入を見送るという話題でした。キハ40形がこれからも当面見られるのは、鉄道ファンとしてはうれしいことかもしれませんが、肝心の輸送サービスに影響が出てしまうようではどうしようもありません。今回は見送りでも、2年後の支援のタイミングでは車両更新ができるようにしてもらいたいものです。
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