JR北海道が平成29年度の決算を発表しました。北海道新幹線の減収が響き、2年連続で過去最大の赤字となりました。北海道新幹線は、開業初年度の54億円の赤字から、平成29年度は103億円の赤字となり、JR北海道の経営にとって大きな重荷となってしまいました。
JR北海道が平成29年度の決算を発表
JR北海道は、5月10日、平成29年度の決算を発表しました。
JR北海道グループ(連結)の経常利益は、平成28年度の103億円の赤字から、平成29年度は106億円の赤字と、2年連続で過去最高の赤字となってしまいました。
今年度(平成30年度)も、110億円の赤字を見込んでいて、予想通りとなれば、3年連続の過去最高赤字となってしまいます。
足を引っ張ったのは北海道新幹線!
平成28年度は、8月に北海道を襲った台風の影響で、札幌~釧路や網走を結ぶ特急が長期間に渡って運休となりました。
平成29年度は、その影響が回復したことで、在来線の収益は持ち直しましたが、それでも過去最高の赤字となってしまったのは、北海道新幹線の不調のせいです。
JR北海道単体の営業収益を見てみます。
平成28年度 | 平成29年度 | |
---|---|---|
営業収益 | 894億円 | 897億円 |
うち鉄道運輸収入 | 727億円 | 728億円 |
再掲 新幹線運輸収入 | 103億円 | 79億円 |
新幹線・在来線を合計した鉄道運輸収入は、ほとんど変わっていませんが、新幹線運輸収入が103億円から79億円へと、約24%も減少しています。
平成28年度は開業初年度、平成29年度は開業2年目ということで、開業効果が薄れてしまったということもありますが、それにしても4分の1も運輸収入(きっぷ等の収入)が落ちてしまうのにはビックリです。
北陸新幹線が、開業2年目も利用客数8%減に留まり、新幹線開業前の2.7倍という高水準を維持しているのとは対照的です。
北海道新幹線だけで100億円超の赤字!
報道によると、平成29年度の北海道新幹線の赤字は、なんと103億円にもなるそうです。
北海道新幹線の営業損益と運輸収入は以下のとおりです。
平成28年度 | 平成29年度 | 平成30年度 (見込み) |
|
---|---|---|---|
営業損益 | ▲54億円 | ▲103億円 | ▲102億円 |
運輸収入 | 103億円 | 79億円 | - |
開業初年度の赤字54億円から、開業2年目の昨年度は、赤字額が倍増してしまっています。運輸収入の落ち込み以上に赤字額が拡大しているのは、青函トンネルの整備費用や、冬期の除雪費用などの影響でしょう。
もともと赤字が予想されていた北海道新幹線ですが、想定以上の赤字となってしまっています。しかも、今年度も改善する見込みはない予想になっています。
「単独で維持困難な線区」問題への影響も
JR北海道が2016年に公表した「単独で維持困難な線区」。10路線13線区にも及びますが、これらの路線の赤字額の合計が158億円です。
- 「単独で維持困難な線区」の赤字の合計額: 158億円
- 北海道新幹線単独の赤字額: 103億円
- JR北海道の平成29年度の経常赤字: 106億円
JR北海道は、経営改善のために「単独で維持困難な線区」の廃止や上下分離による国や自治体の支援を要望していますが、北海道新幹線の赤字もばかにならないということがわかります。
JR北海道が「単独で維持困難な線区」を発表したのが2016年11月、北海道新幹線の開業初年度です。このとき、北海道新幹線は47億円の赤字を想定していましたが、実際は54億円の赤字となりました。これくらいならともかく、翌年の平成29年には赤字が50億円も増えてしまいました。
経営改善策として「単独で維持困難な線区」158億円の赤字削減を目指していたところに、想定外の50億円の負担。当然のことながら、「単独で維持困難な線区」の行方にも影響がありそうです。
具体的には、JR北海道の財政が想定したよりも逼迫してくるとなると、国や自治体に対して、その分を補う支援を求めざるを得なくなります。それに応じられない自治体がでてくると、路線廃止になりかねません。
北海道が公表した「鉄道網(維持困難線区)のあり方」では、以下のように記載されています。
- 幹線交通ネットワークとして「維持に向けてさらに検討を進めるべき」とされた線区
- 宗谷線(名寄~稚内)
- 石北線(新旭川~網走)
- 「路線の維持に努めていくことが必要」とされた線区
- 根室線(滝川~富良野)
- 富良野線(富良野~旭川)
- 釧網線(東釧路~網走)
- 根室線(釧路~根室)
- 日高線(苫小牧~鵡川)
- 室蘭線(沼ノ端~岩見沢)
- 「他の交通機関との代替も含め、地域における検討・協議を進めていくことが適当」とされた線区
- 留萌線(深川~留萌)
- 根室線(富良野~新得)
- 札沼線(北海道医療大学~新十津川) ※「バス転換も視野に」と記載
- 日高線(鵡川~様似)
上記の記事では、「路線の維持に努めていくことが必要」とされた6線区の行方がポイントになりそうだということを述べましたが、北海道新幹線の想定外の赤字拡大で、この6線区の中からも廃止となるものが出てくるかもしれません。
青函トンネルは国の管理にすべきでは?
北海道新幹線の収益が厳しいのは、北海道の厳しい自然のせいもありますが、それ以上に、青函トンネルの維持費が重いからです。
この記事によると、開業後30年を経た青函トンネルの構造物自体の老朽化に加えて、車輪の幅が異なる貨物列車と新幹線が走るための三線軌条(3本のレールがある線路)の維持費もかかり、JR北海道の負担だけで年41億円にもなるそうです。
北海道新幹線の収入が79億円しかない中で、設備の維持管理費用に41億円もかかってしまったら、赤字になるのも無理はありません。
青函トンネルの主役は、実は北海道新幹線ではなく、本州と北海道を結ぶ貨物列車です。北海道新幹線は1日13往復(26本)ですが、青函トンネルを通る貨物列車は1日に50本以上。本州~北海道の物流の40%以上を占めているそうです。(残りは、フェリーでトラックごと渡る)
この日本の大動脈を維持するために、全額ではないにせよ、大赤字のJR北海道が多額の費用を拠出しているのは、どう考えてもおかしいと思うのです。JR北海道支援策の一環として、青函トンネルの維持管理費用を全て国が出すようにできないものなのでしょうか。国として必要なインフラであることは間違いないですから、その維持管理を税金で賄うことの理解は得られやすいのではないかと思うのですが、どうでしょうか。
以上、JR北海道の平成29年度決算の話題でした。北海道新幹線の想定外の赤字拡大が、今後のJR北海道の経営や「単独で維持困難な線区」の協議にどう影響してくるのでしょうか。今後1~2年で方向性は見えてくると思いますので、目が離せませんね。