JR東日本は、東北新幹線の盛岡~新青森間の最高速度を、現状の260km/hから320km/hへ引き上げるための計画概要をまとめ、2020年10月から工事に入ることを発表しました。整備新幹線区間での初の最高速度の引き上げ、そして、北海道新幹線札幌延伸時の東京~札幌4時間の実現へ、大きな一歩になりそうです。
東北新幹線 盛岡~新青森間の最高速度を260km/hから320km/hへ!
JR東日本は、東北新幹線の盛岡~新青森間の最高速度を260km/hから320km/hへ引き上げるための計画概要をまとめ、2020年10月から、騒音対策等の設備工事に着手することを発表しました。
概要は以下のとおりです。
- 速度向上の概要
- 区間: 盛岡~新青森
- 最高速度: 320km/h(現行 260km/h)
- 所要時間の短縮: 最大5分程度
- 主な地上設備工事の概要
- 吸音板の設置: 計約1.3km
- 防音壁のかさ上げ等: 計約3.6km
- トンネル緩衝工の延伸等: 計約24箇所
- 工事期間
- 2020年10月から概ね7年程度
詳しくは、JR東日本のニュースリリースをご覧ください。
北海道新幹線札幌延伸に向けて東北新幹線の高速化に取り組むJR東日本
東京から東北新幹線沿線の各都市へのシェアは、ほぼ東北新幹線の独り勝ち。これ以上、高速化をしても、東北新幹線内の乗客の増加はそれほど期待できません。ところが、近年、JR東日本は、東北新幹線の高速化に積極的に投資しているのです。
今回発表された盛岡~新青森の320km/h化以外にも、新型試験車両「ALFA-X」による最高速度360km/hの実現や、騒音対策のために最高速度が110km/hに制限されている上野~大宮間の130km/h化などがあります。
これらは、北海道新幹線の札幌延伸開業を見据えた施策です。
東京(首都圏)~札幌間の東北・北海道新幹線の所要時間は、計画では5時間1分とされています。ところが、これでは航空機に対して全く競争力がありません。一般に、「4時間の壁」と言われ、駅間の所要時間が4時間を超えると、新幹線と航空機のシェアが逆転すると言われています。
その「4時間」に少しでも近づけようと、さまざまな施策を打っているわけです。
東京(羽田)~札幌(新千歳空港)は、日本一のドル箱路線。少しでもシェアを奪うことができれば、JR北海道だけでなく、JR東日本にも大きなメリットがあるというわけです。
北海道新幹線 札幌延伸時の東京~札幌「4時間」は実現可能か?
それでは、北海道新幹線札幌延伸時に、東京~札幌間で「4時間の壁」を突破することはできるのでしょうか。
結論からいうと、4時間を切るのは非常に厳しいですが、4時間半くらいなら実現できる可能性がある、というところでしょうか。
現在、東北新幹線、北海道新幹線の高速化で具体化されている施策と、区間、時短効果は以下のとおりです。
区間 | 最高速度 | 時短効果 | 備考 |
---|---|---|---|
上野~大宮 | 110km/h→130km/h | 1分 | 2021年3月 実施予定 |
宇都宮~盛岡 | 320km/h→360km/h | 10分? | 未定 ※1 |
盛岡~新青森 | 260km/h→320km/h | 5分 | 2027年頃 |
青函トンネル | 140km/h→160km/h | 4分 | 2019年3月 実施済 |
新函館北斗~札幌 | 260km/h→320km/h | 5分 | 札幌延伸時 |
合計 | 約25分 |
※1: 時速275km→320kmで約10分短縮(E2系はやて→E5系はやぶさの置き換えによる実績)と同等の時短効果を想定
現在具体化されている施策による時短効果を合計すると約25分。もともとの計画が5時間1分でしたから、やはり4時間半が現実的なところとなります。
それぞれ見ていきます。
上野~大宮間の最高速度130km/h化
東北新幹線の上野~大宮間は、騒音対策のために、最高速度が110km/hに制限されています。JR東日本は、この区間の最高速度を130km/hに引き上げる防音工事にすでに着手しており、今回のニュースリリースで、2021年春のダイヤ改正で、最高速度を130km/hへ引き上げることを発表しています。
- 区間: 上野~大宮
- 最高速度: 上野~大宮間の埼玉県内で130km/h(現行110km/h)
- 所要時間の短縮: 最大1分程度
(出典)新幹線の速度向上に向けた取り組みについて(JR東日本ニュースリリース 2020年10月6日 PDF)
宇都宮~盛岡間、「ALFA-X」で最高速度360km/hへ
宇都宮~盛岡間は、現在、日本で最も速い最高速度320km/hでの営業運転が実施されています。具体的には、E5系・H5系、E6系新幹線て運転される「はやぶさ」「こまち」が320km/hで運転されています。
この区間の最高速度を360km/hに引き上げるために、JR東日本は、試験車両「ALFA-X」を製作し、東北新幹線での試験走行を重ねています。
360km/h運転の実用化時期は発表されていませんが、北海道新幹線札幌延伸となる2030年度末までの実用化を目指しているものと想定されます。
盛岡~新青森間、整備新幹線区間で最高速度320km/hへ
今回のニュースリリースで発表された盛岡~新青森間の最高速度320km/h化。
すでに盛岡以南ではE5系などが320km/h運転を実施しているため、実現のポイントは設備側になります。もともと最高速度260km/hで設計されている区間を320km/hに対応するための工事を実施するわけですが、その大半は騒音対策です。特に、この区間はトンネルが多いため、トンネル進入時の爆音を軽減するためのトンネル緩衝工の延伸工事が多いようです。
そして、注目なのが、この区間が「整備新幹線」であること。整備新幹線は、国(鉄道建設・運輸施設整備支援機構)が設備を建設・保有し、JRに貸し付けています。その際、最高速度が260km/hと決められているため、車両が320km/h運転に対応しているからといって、JRが勝手に最高速度を上げるわけにはいきません。
今回、JR東日本が整備新幹線区間の最高速度引き上げの工事に着手すると発表したからには、国土交通省との何らかの調整があったものと想定されます。
これが実現すれば、整備新幹線区間での初の最高速度向上ということになりますので、他の整備新幹線(北陸新幹線や九州新幹線など)でも最高速度の向上が実現できるかもしれません。
青函トンネルの160km/h運転を実施、2021年には期間限定で210km/h運転へ
北海道新幹線の青函トンネル区間は、貨物列車と線路を共用しています。「三線軌条」というレールが3本ある線路が敷かれていて、貨物列車は在来線仕様の狭軌(1,067mm)を、北海道新幹線は新幹線仕様の標準軌(1,435mm)のレールを使用します。
青函トンネル内では、新幹線と貨物列車がすれ違う際の風圧で、貨物列車のコンテナが荷崩れすることを防ぐため、北海道新幹線開業当初は、最高速度140km/hで運転されていました。その後、青函トンネル内での走行試験を重ね、2019年3月のダイヤ改正で、これを160km/hに引き上げ、東京~新函館北斗間の4時間切り(3時間58分)を実現しました。
そして、JR北海道は、2020年12月31日~2021年1月4日の5日間、始発から15時半頃までの上下各7本の列車に限り、青函トンネル内を210km/hで運転すると発表しました。
これは、年末年始で貨物列車が運休となる期間を狙って、貨物列車とのすれ違いがない日にち・時間帯に限定しての高速化です。これで所要時間が約3分短縮されるとしています。
青函トンネルを通る貨物列車は非常に多く、北海道新幹線の本数よりもずっと多いのです。そのため、「貨物列車とのすれ違いのない時間帯だけの高速化」では、根本的な解決にはなりませんが、青函トンネル内で初の200km/h越えの営業運転が実施されることには意味があるでしょう。
新函館北斗~札幌間、JR北海道が差額負担で320km/h化を国交省に要請
2030年度末までの新規開業区間となる新函館北斗~札幌間(約212km)も、整備新幹線として建設されます。これに対して、JR北海道が、320km/h運転を実現するために必要な設備を建設するための差額分(JR北海道は120億円と試算)を負担して、高速化を実現することを国土交通省に要請しています。
これにより、約5分の時短効果を見込めるということです。
この区間は、現在、まさに建設中ということで、設備面での実現可能性は高そうです。ただ、経営状態が厳しいうえに、コロナ禍で大きな影響を受けているJR北海道が120億円を負担できるのかが心配ではあります。
北海道新幹線 東京~札幌「4時間の壁」突破のカギは青函トンネル?
これまで見てきたように、現在具体的になっている施策を総動員して、かつ、すべてがうまくいって、ようやく東京~札幌間が4時間半といったところでしょう。
さらに航空機に対する競争力を増すためには、できるだけ4時間に近づけることが重要ですが、そのカギはやはり青函トンネルにありそうです。
2019年に青函トンネルの最高速度を140km/hから160km/hへ引き上げた際には、最大で約4分の時短効果がありました。ところが、2020年年末~2021年年始の210km/h運転では、最高速度が50km/hも向上するにもかかわらず、時短効果は3分。おそらく、210km/hで運転する区間が短いのでしょう。
青函トンネルは53.85kmですが、貨物列車と線路を共用する区間は、青函トンネルの前後も含めて約82kmにも及びます。この全区間で速度向上をするためには、設備の改修などが必要なのかもしれません。
ただ、それは、まだ速度向上の余地があるということにもなります。今のところ、貨物列車とのすれ違いを高速で実現する技術に目途が立っていませんが、この区間を260km/hで運転することができれば、10分程度の時短効果が見込めるはずです。そうすれば、東京~札幌は4時間20分。だいぶ「4時間の壁」に近づくことができそうです。
以上、『東北新幹線 盛岡~新青森間で320km/h運転を実現へ! 北海道新幹線東京~札幌「4時間の壁」突破に向けて大きな一歩!』でした。北海道新幹線の札幌延伸開業まであと10年。開業時に、東京~札幌の所要時間がどこまで縮まっているか、楽しみですね。
コメント
仙台〜札幌が3時間強なら航空と激しい競争になりそうです。
3時間を切ると今度は航空側が撤退して、殿様商売になってしまいますが。
びんぼっちゃまさん、コメントありがとうございます。
記事は東京視点で書きましたが、仙台~札幌の需要もそれなりにありそうですね。あとは、空港から遠い北関東~札幌も、新幹線が有利になると思います。北関東の需要を取り込むなら、宇都宮に止まる「はやぶさ」も設定されるかもしれませんね。