男鹿線への導入が発表されていた交流型蓄電池電車「EV-E801系」の試験が、12月中旬から秋田地区で開始されることが発表されました。営業運転開始は2017年春頃を予定しているとのことです。詳細は下記のニュースリリースをご覧ください。
交流蓄電池電車「EV-E801 系」来春デビューに向け準備を進めます(JR東日本秋田支社ニュースリリース 2016年12月2日, PDFファイル)
蓄電池電車とは?
蓄電池電車は、蓄電池(二次電池)を搭載することで、電化区間では架線からの電力でモーターを回して走行するとともに、蓄電池への充電を行い、非電化区間では蓄電池に貯めた電力を用いて走行 する電車のことです。これまで、JR東日本の烏山線(EV-E301系)、JR九州の筑豊本線(BEC819系) が実用化されています。主にローカル線で利用されている国鉄型の古い気動車(ディーゼルカー)の置き換えを目的に開発・導入されています。
男鹿線に導入される「EV-E801系」とは?
EV-E801系は、JR九州で実用化されている交流型蓄電池電車「BEC819系」を、寒冷地用にカスタマイズしたものだそうです。昨年、男鹿線への導入が発表されていました。下記のニュースリリースに詳細が載っています(PDFファイルが開きます)。
新たな「蓄電池電車」を男鹿線に導入します(JR東日本秋田支社 ニュースリリース 2015年11月20日, PDFファイル)
男鹿線は、秋田県の追分~男鹿間を結ぶ全長26.6kmの非電化路線です。全列車が、奥羽本線経由で秋田~男鹿を結んでいます。奥羽本線は電化路線ですので、秋田~追分間を走行中はパンタグラフを上げて、架線からの電力で走行&充電、追分~男鹿間は、蓄電池にためた電気で走行するということになります。
終着駅に充電設備が必要
男鹿線では、終点の男鹿駅に充電設備を設け、停車中に充電できるようにするとのことです。同様の設備は、烏山線の烏山駅にも設けられています。烏山線も非電化路線ですが、烏山駅に到着すると、パンタグラフを上げて充電を開始します。
タイトルの写真は、2014年夏に1日分余った青春18きっぷを利用して烏山線を訪問した時のものですが、駅構内にのみ架線が張られていて、充電できるようになっています。通常の架線ではなく、剛体架線という頑丈なもので、通常よりも大きな電流を流すことで急速充電ができるようになっています。
車止めの向こうには、こんな設備がありました。充電用の設備と思われます。
ちなみに、EV-E301系に乗車した感触としては、(あたりまえですが)完全に電車でした。しかも最新型の電車なので、古い気動車と比べると、ずっと静かですし、揺れも少ないので、沿線の乗客には喜ばれているかもしれません。
JRとしても「電車」扱いになっていて、気動車では列車番号に"D"が付くのに対して、EV-E301系の列車のみ、列車番号に"M"が付いています。
蓄電池電車は導入路線の条件がかなり厳しい
男鹿線への導入で日本では3例目の実用化となりますが、現在の仕様の蓄電池電車が走行できる路線は、かなり限られているように思います。これまでの3例を見ると、具体的には、
- 20~30km程度の比較的短距離の非電化路線であること
- 電化区間と非電化区間にまたがって走る列車が設定されていること
- 終着駅での充電時間を確保するため、ダイヤに余裕のある路線であること
というのが条件になっているように思います。
一番のネックは、蓄電池の容量によって、非電化区間を走行できる距離が限られていることでしょう。現在の蓄電池電車はリチウムイオン電池を搭載していますが、烏山線のEV-E301系は、
一方、EV-E301系は「フル充電、平坦路線、無停止で約50キロの走行が可能」という性能にとどまるため、小海線のような山岳路線や長距離の運転には向かない。
(出典)【スゴ技ニッポン】CO2排出6割削減 日本初の蓄電池駆動電車「EV-E301系」 栃木の線路を快走中(1/4ページ) - 産経ニュース
とあるとおり、50kmしか走行できないようです。烏山線は20.4km、男鹿線は26.6kmですので、途中駅での運転見合わせなどの事態に備えようとすると、非電化区間30km程度の路線が限界 ということなのかもしれません。JR九州の筑豊本線でも、若松~折尾の非電化区間(10.8km)と、折尾~直方の電化区間を直通させる運用を予定しているようです。
他に導入候補は?
JR東日本で20~30km程度の非電化路線というと、
- 左沢線(北山形~左沢,24.3km)
- 久留里線(木更津~上総亀山, 32.2km)
- 陸羽西線(新庄~余目, 43km)
くらいでしょうか。久留里線は最近キハE130系を導入したばかりなので可能性は少ないと思います。左沢線、陸羽西線は、ともに電化区間との直通運転の列車もありますので、もしかしたら可能性があるかもしれません。
路線全体にではなく、電化路線から非電化路線の一部、特に、ターミナル駅の近辺の区間列車に導入するという案もあるかもしれません。
他にも、非電化区間向けには電気式気動車の導入が決まっている路線もあったり、各地で運転されているリゾート列車には、電気式気動車に蓄電池を積んだハイブリッド車両も導入されています。従来の気動車の代わりに、これらをどのように使い分けていくのか、興味のあるところです。
コメント
会津鉄道あたりいいかも知れませんね
> kentaro-takanoさん
コメントありがとうございます。
地方の中小私鉄にはよいかもしれませんね。JRの電化路線との直通運転にはちょうどよさそうです。
JR東日本は以下の論文によると、電化区間である大糸線の松本~南小谷間にも蓄電池システム電車の導入をを検討しているようです。
平成26年電気学会全国大会「5-118 大糸線設備スリム化に向けた蓄電池駆動電車システムの有効性について」(東日本旅客鉄道・東京大学)
内容は、
今後の変電所設備更新に際し、大糸線のような閑散区間に今までのような重厚な地上電化設備を維持するか、蓄電池システム電車を導入することで地上電化設備のスリム化を図るか検討されています。
>ガンジー国芳さん
コメントありがとうございます。
電化設備を撤去してしまうということですかね? それはまた大胆な…
ただ、電化設備がなければ、大糸線はちょうどよいかもしれませんね。