JR北海道が平成27年度の線区別収支を発表しました。留萌本線の留萌~増毛の廃止が来月に迫ってきていますが、他にもバス転換を地元と協議するという報道があった路線がいくつかあります。線区別収支を見ると、改めてこれらの路線の厳しい状況がわかります。
平成27年度の線区別収支
11月4日にJR北海道の線区別の収支状況が発表されました。
平成27年度 線区別の収支状況について -北海道旅客鉄道株式会社- 11月4日 リリース
輸送密度と営業係数の表に分かれていますが、主に廃止を検討する、あるいは、JR北海道単独では維持困難な路線の目安として挙げられている、輸送密度500未満と、500以上2000未満の線区を抜粋してみました。
輸送密度は、人/キロ/日という単位で表され、1日1kmあたりの利用人数を示します。どのくらいのお客さんに乗ってもらっているかを表す指標だと思えばよいでしょう。営業係数は、100円の営業収入を得るのにどれだけの営業費用を要するかの数値で、100未満であれば黒字、100以上であれば赤字ということになります。
輸送密度500(人/キロ/日)未満の路線
線名 | 線区 | 輸送密度 | 営業係数 | 備考 |
---|---|---|---|---|
留萌線 | 留萌~増毛 | 67 | 2583 | 平成28年12月に廃止予定 |
札沼線 | 北海道医療大学~新十津川 | 79 | 2213 | 廃止を検討との報道あり |
石勝線 | 新夕張~夕張 | 118 | 1188 | 廃止に合意 |
根室線 | 富良野~新得 | 152 | 1854 | 台風被害で一部区間運休中、廃止を検討との報道あり |
留萌線 | 深川~留萌 | 183 | 1342 | 廃止を検討との報道あり |
日高線 | 苫小牧~様似 | 185 | 2155 | 鵡川~様似間は台風被害で運休中 |
宗谷線 | 名寄~稚内 | 403 | 618 | |
根室線 | 釧路~根室 | 449 | 518 | |
根室線 | 滝川~富良野 | 488 | 1010 |
輸送密度500以上~2000未満の路線
線名 | 線区 | 輸送密度 | 営業係数 | 備考 |
---|---|---|---|---|
室蘭線 | 沼ノ端~岩見沢 | 500 | 965 | |
釧網線 | 東釧路~網走 | 513 | 561 | |
函館線 | 長万部~小樽 | 690 | 573 | 北海道新幹線札幌延伸時に並行在来線に |
石北線 | 上川~網走 | 1061 | 332 | |
富良野線 | 富良野~旭川 | 1477 | 363 | |
石北線 | 新旭川~上川 | 1481 | 296 | |
宗谷線 | 旭川~名寄 | 1571 | 384 | 北海道高速鉄道開発が一部を保有 |
(注)平成27年度 線区別の収支状況について -北海道旅客鉄道株式会社- 11月4日 リリース より抜粋・再構成
(注)太字は11/15北海道新聞での報道でJR北海道が維持困難としてあげた線区
維持困難な13線区
一方、JR北海道がこの秋に発表するとしていた単独で維持困難な線区が、10路線13区間に及ぶことが報道されました。
ここに挙げられている線区を、上の表で太字にしてみました。12線区しかないですが、北海道新聞の報道では日高線が、苫小牧~鵡川と鵡川~様似の2区間に分かれていましたので、これで13線区となります。
こうしてみると、輸送密度2000未満の路線のほぼすべてが対象となっています。北海道新聞の報道では、すでにバス転換を検討しているとの報道があった札沼線の北海道医療大学~新十津川、根室線の富良野~新得、留萌線の深川~留萌の3線区以外は、上下分離方式を念頭に自治体と協議をする意向とのことです。
対象になっていない函館線の長万部~小樽は、北海道新幹線札幌延伸時に並行在来線として分離されることが決まっていますので、それまではJR北海道が維持するということなのでしょう。また、今回対象とならなかった、宗谷線の旭川~名寄と、根室線の帯広~釧路は、一部を第三セクターの北海道高速鉄道開発が所有しているとのことで、同社を通じて負担増を求める可能性があるとのことです。
輸送密度500~2000の路線は幹線ばかり
輸送密度200未満の路線は、すでに廃止が決定しているか合意済み、または、これまでにバス転換を検討すると報道のあった線区です。
問題は輸送密度500~2000の路線です。これらの路線は、幹線やその迂回路となりうる路線ばかりです。いわゆるローカル線の末端区間の廃止とは意味合いが全く異なり、これらの路線を廃止するということは、JR北海道の鉄道ネットワークを分断することを意味します。
留萌~増毛の廃止のように、路線の末端区間の場合は、その地域のローカル輸送に特化している場合が多いため、地元自治体との協議で、バス転換など代替の交通機関を用意するといった交渉を経て廃止が決まります。それでは、輸送密度500~2000にあがっているような線区を廃止する場合は、誰がどのように決めるのでしょうか? もちろん、その線区のローカル輸送に関しては、地元自治体との協議が必要でしょうけれど、そこがクリアできれば廃止してよいのか? という問題があると思います。
少し考えただけでも、
- 貨物列車が走る幹線区間の場合、JR貨物との協議に加え、当該区間を経由する物流をどうするのか?
- 宗谷線や石北線のように、札幌と稚内や釧路を結ぶ特急列車が走っている区間を廃止する場合、都市間輸送はどうするのか?
- 自然災害などで幹線区間が不通になった際の代替交通機関や物流をどうするのか?
といった問題がありそうに思います。
今回は、上下分離方式を念頭に置いて交渉をするとのことで、廃止前提ということではないのですが、沿線の自治体が費用を出せないとなった場合に、北海道や国としてどうするのかが問われるのではないかと思います。
札幌圏の営業係数が105、全線区で赤字!?
もう一つ問題なのは、JR北海道の路線でドル箱だと思われる札幌圏の営業係数が105、つまり赤字であることです。インフラ産業では、都市圏などで収益を上げて、地方の赤字を穴埋めすることで、全国ネットワークを維持するのが普通ですが、最も儲かるはずの札幌圏が赤字ではそれができません。極論すると、北海道だけでは民間の鉄道事業は成り立たない、ということになりそうです。札幌市だけで195万人、札幌圏では230万人以上の人口があり、しかも人口は増加しているそうですが、それでも赤字というのは、地域的な特性なのでしょうか。
民間会社であるJR北海道が単独でできることとすれば、札幌圏でいかに黒字化するか、ということかもしれません。
今後も、JR北海道の行方に注目していきたいと思います。