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鉄道での復旧が決まったJR只見線、沿線自治体はなぜ大きな負担を受け入れて鉄路の復活を求めたのか?

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既報のとおり、2011年の大雨災害で運休が続いていたJR只見線の只見~会津川口間の鉄道での復旧が決まり、JR東日本と福島県が基本合意の覚書を締結しました。この合意では、復旧費用だけでなく、復旧後の上下分離や、JR東日本の負担軽減のための設備使用料の減免措置などが盛り込まれ、かなりJR東日本に有利な内容となっています。沿線自治体が、ここまでの負担を受け入れて只見線の復旧にこだわったのはなぜなのかを考えてみました。

なお、只見線の鉄道復旧のニュースについては、こちらの過去記事をご覧ください。

www.kzlifelog.com

福島県や非沿線自治体も加わった「只見線復興推進会議」

只見線の復旧に向けて、福島県を代表として、被災区間(只見~会津川口)がある只見町、金山町をはじめとする沿線自治体7市町に加えて、会津地方の非沿線自治体10市町村が参加する「只見線復興推進会議」を立ち上げました。福島県内の自治体だけでなく、魚沼市など新潟県の自治体も含まれます。

「只見線復興推進会議」の体制は県・会津地方の意思表示

まず、このような17市町村が参加する「只見線復興推進会議」という体制を構築できたことが、只見線の復旧に向けては大きな原動力になったと思います。JR東日本との協議を沿線自治体だけに任せず、福島県が代表を務めたことにも大きな意味があります。只見線が福島県全体にとっての重要な交通インフラだという意思表示になるからです。さらには、費用負担を求められる恐れがあったにもかかわらず、非沿線自治体の10市町村が加わったことで、会津地方全体としても只見線の復旧を求めていることがわかります。

もし被災区間の自治体に任せていたら?

もし、このような体制を構築せず、被災区間がある只見町・金山町の2町だけにJR東日本との協議を任せていたらどうなったでしょうか? おそらく、費用負担に耐えられず、被災区間は鉄道廃止になっていた可能性もあると思います。

それだけでなく、もっと重要なことは、被災区間のある自治体の損得だけで考えてしまうと、「地元住民の足」としての只見線の重要性と費用負担を天秤にかけるという見方しかできなくなってしまう ということです。

今回の只見線の復旧に関しては、

地方創生の視点を加味し、(1)鉄道を核とした新たな地域振興策の展開が可能になる(2)只見線の歴史的価値が守られる

福島民報の記事より引用

という点が強調されています。

交渉の過程では、

  • バス転換: 6.5往復/日のバス運行,バスの運行費用は全額JR東日本持ち(自治体負担なし)
  • 鉄道復旧: 工事費用数の3分の2(約54億円)+上下分離に伴う鉄道設備の維持管理費2.1億円/年を自治体が負担

という選択肢がありました。バス転換であれば自治体には一切費用負担は発生しなかったわけですが、それでもなお、鉄道での復旧にこだわったのは、上記のとおり、鉄道を核とした地域振興を狙っているからです。このような視点で議論ができたのは、福島県をはじめ、広範囲にわたる自治体が協議に参加したからだと思います。

中越地方~会津地方を結ぶ鉄道ネットワークの維持を優先

この「鉄道による地域振興」を実現するためには、中越地方と会津地方を結ぶ鉄道ネットワークの維持 が重要だったと思われます。

首都圏から只見線沿線に観光客を呼び込むためには、上越新幹線~上越線~只見線のルートが必要です。さらに、観光地として魅力の大きい会津若松や喜多方への周遊ルートとして只見線を利用してもらい、その途中で観光をしてもらうためには、只見線が分断されていたら話になりません。

鉄道というのはネットワークですので、たとえわずかな区間でも分断されていたら、それはネットワークとしての意味を成しません。

一部でも廃止されたら残りは盲腸線に

只見線の復旧を巡る議論の中で、「一部区間でも鉄道を廃止したら、只見線の他の区間もなし崩し的に廃止されてしまうのでは」という懸念があったそうですが、それは正しいと思います。一部区間でも廃止し、ネットワークとして意味をなさなくなったら、あとは地元住民の足としての役割しか残りません。その場合、バス転換したほうが利便性が高まるうえに、費用も少なくて済むという判断に傾きやすくなり、あっという間に全線で廃線になってしまうでしょう。

昨年廃止になったJR北海道の留萌~増毛間のように、鉄道は盲腸線(終点が他の鉄道と接続していない路線)から廃止されていきます。ネットワークとしての役割よりも、地元住民の足としての役割が大きいためです。廃止する側の鉄道会社も、廃止する区間の自治体とだけ交渉すればよいため、交渉がしやすいのでしょう。

現時点で、巨額の費用負担をして鉄道を残したことが正解だったかはわかりません。ただ、鉄道を残すという目的を達成するために、只見線全体の5分の1程度でしかない只見~会津川口間を鉄路で復旧させるという判断をしたことは正しいでしょう。

自治体負担2.1億円/年を上回る経済効果はハードルが高い

とはいえ、毎年2.1億円を負担するのに見合った「地域振興策」を実現するのは、かなりハードルが高いのも事実です。

JR東日本が公開している資料では、

  • 只見線全線の運賃収入: 約1.7億円(2010年度)
  • 運休区間(只見~会津川口)の運賃収入: 約500万円(2009年度)

「只見線について」(JR東日本 2014年1月22日)より引用

となっています。只見線全線の運賃収入でも、自治体負担とされる2.1億円/年に届きません。ましてや、運休区間だけを見ると、たった500万円の運賃収入しかありません。

この状況から考えると、鉄道の運賃収入だけで自治体負担の2.1億円/年を超える経済効果を得ることは不可能でしょう。

そうなると、いかに観光客に只見線沿線で下車してもらい、飲食や宿泊、バス等の交通機関にお金を落としてもらえるかが重要になってきます。JR東日本と協力して、上越新幹線に接続する直通列車を走らせることで、首都圏から鉄道で観光客を誘導する施策を考えていく必要がありそうです。その昔、会津若松~浦佐間に急行「奥只見」が走っていましたが、このような列車が必要でしょう。今どきであれば、単なる優等列車ではなく、観光列車のほうが合うかもしれませんね。

鉄道維持のモデルケースになれるか?

こんなことを考えてみたのは、今後、過疎地の鉄道では同様のケースが多く発生し、そのときに鉄道が維持できたモデルケースになりえるのではないかと思ったからなのです。厳密には、只見線は大雨被害が契機となって廃止か復旧かの議論が始まったわけですが、復旧後の上下分離方式のスキームなどは参考になるのではないかと思います。

昨年JR北海道が発表した維持困難路線を対象に、同様の協議がJR北海道と自治体の間で始まりつつあります。もちろん、只見線のケースと比較すると、JR東日本とJR北海道の企業体力が大きく違うことや、JR北海道の場合は対象となる線区が膨大であることなど、さらに難しい問題に直面していることは間違いありません。何がなんでも全線で鉄道維持というのは難しいでしょうけれど、鉄道が維持できる可能性がある線区、あるいは、維持すべき線区に関しては、今回の只見線の事例が参考になるのではないかと思います。

そういった意味でも、今後、只見線が復旧したあとの「鉄道を核とした地域振興策」がどのように効果を上げるのかを注目していきたいと思います。